「その邦題に待った!」
・・・ その映画の邦題、おかしくない? ・・・
■名訳も多い
ちょっと納得のいかない邦題について振り返る企画です。海外映画が日本に入ってくる場合、原題または直訳ではなく、映画会社が独自でタイトルをつける場合があります。時には金星を挙げることも。
例えばピーター・ウィアー監督、ロビン・ウィリアムス主演の 「いまを生きる」(1989)。原題 "Dead Poets Society" (死せる詩人たちの会)を、見事に作品の本質を浮き立たせる邦題に変えています。それからスペイン発のサスペンス映画、 "Intacto"(2001)。触れられていない ・・・、という意味。映画を見た人なら分ると思いますが、実はかなり意味深なタイトル。そしてこの映画につけた邦題が 「10億分の1の男」。内容を知らなくても、タイトルだけで見事に映画ファンの興味をそそります。 "The Longest Day"(1962) などは昔から有名。直訳すれば「最も長い日」、ということで日本語にしてしまうと何とも平凡なタイトル。なのですが、邦題は 「史上最大の作戦」、と、実にダイナミックなイメージを醸成させています。文字通り第二次大戦中最大の作戦であった連合軍のノルマンディ上陸作戦を描いた戦争スペクタクル。最早伝説になりつつある戦争映画の金字塔です。 が、逆のケースもあります。邦題で台無しにしてしまうケース、あるいは内容とは違った意味の邦題。ここでは、そんな脱線してしまった邦題のいくつかを取り上げてみたいと思います。
■名作にあやかれ!
かつての名作に思いを込めたのかどうか。ここに、 「コレクター」という映画があります。オールドファンなら巨匠ウィリアム・ワイラー監督の「コレクター」(1965)が頭に浮かぶことと思います。原題は "The Collector"、主演はテレンス・スタンプとサマンサ・エッガー。蝶の収集家の主人公が、今度は美女を収集しようとして、誘拐し監禁してしまうという恐ろしい話。異常心理者と人間のエゴをテーマにした名作として知られます。狂気とドラマを融合させたつくりで、当時としてはかなりの異色作でした。 ところが1997年、再び「コレクター」というタイトルの映画が登場します。監督はゲイリー・フレダー、主演はモーガン・フリーマンにアシュレイ・ジャッド。ところがこのタイトルは日本だけ。原題は "Kiss The Girls" 。ジェームズ・パターソンの刑事アレックス・クロス・シリーズが原作。内容は、美女たちが次々と誘拐され監禁されるというもので、確かにワイラー作と似てはいます。が、いわゆるサイコものではなくサスペンスがメイン。当然色調そのものは隔絶しています。つまりは本家「コレクター」のリメイクでも続編でもないということ。それでも原題に "Collector" の文字が入っていれば、まあ仕方ないか、とも思いますが、ちょっと納得はいきません。 ついでに言えば、こちらには続編もあります。 「スパイダー」( "Along Came A Spider", 2001年) がそれで、よせばいいのに(と、私は心の中で思ったのですが)「コレクター2」とサブタイトルをつけていました。監督はリー・タマホリ、主演は引き続きモーガン・フリーマン。ただし、この二作品、いずれも娯楽サスペンスとしての見応えは十分。内容だけでちゃんと勝負できるのに、と、首をひねるばかりです。
■ヒット作にあやかれ!
ヒット作にあやかるというのはよくあることで、オカルト・ホラーの金字塔、 「オーメン」(1975年, 原題 "The Omen", 予兆の意)はその顕著な例。この物語は "4" までつくられましたが、関係もないのに「オーメン」と名付けた映画が続出。大いにファンを惑わすこととなりました。「オーメン黙示録」、「オーメンミレニアム」、「新オーメン」など。いずれも原題に "Omen" の文字は見当たりません。 ヒッチコック監督のスリラーの名作 「サイコ」("Psycho", 1960年)も同様。主演はアンソニー・パーキンスとジャネット・リー。会社の金を横領したOLが逃亡、途中、寂れたベイツモーテルに行き着きますが、謎の殺人鬼に殺されてしまうという内容。裸の女性がシャワーを浴びている最中にナイフで殺される、というくだりは史上最も有名なシーンのひとつ。 この本家「サイコ」には続編("Psycho 2", 1983年, リチャード・フランクリン監督, トム・ホランド脚本)がありますが、1998年には、ガス・ヴァン・サント監督の手で完全リメイク作品が製作されました。アン・ヘイチが何ともキュート。この二作品、あまりにも有名な前作を継承し得たのかどうか、と、賛否両論を呼びました。いずれにせよ、ヒッチコック作品がきっかけで、サイコ、という言葉が、異常心理の象徴として頻繁に使われることになります。
上記の作品は、内容からして、いずれもが、まあ許容範囲、と呼べますが、そうでないものもあります。それが、 「サイコ2001」というイギリス映画。監督はギャビン・ミラー、原作はイアン・バンクスのベストセラー。主演はジョニー・リー・ミラー、共演にブライアン・コックス。原題は "Complicity" (共謀・共犯の意)。物語は、残虐な手口の連続殺人事件の真相を新聞記者が追うというもの。 問題は内容。残念ながら異常心理を扱った内容ではありません。サイコという映画界では特別な言葉の効果を、多分に利用したと見れるのではないでしょうか。実は一部に麻薬や暴力を必要悪とするようなところがあって、個人的にはちょっと好きになれませんでした。 が、それでも、まあそれだけなら “アリ” かも知れません。猟奇的な殺人を 「サイコ」 という言葉に結び付けてみた、とも取れます。しかし、"2001" という部分にも問題が。実はこの映画の製作は1999年。舞台が2001年であるわけでもないのですが、日本での公開年は2001年。単にそれが理由だとしたら、かなりお粗末なタイトル、と言わざるを得ません。
■訳まちがい?
邦題の中には、訳間違いと思われるタイトルもあります。例えば 「真夏の夜の夢」。何度も映画化されている(最近では 1999年、監督マイケル・ホフマン)シェークスピアの名作ですが、これは "A Midsummer Night's Dream" の直訳。が、このタイトル自体、近年では誤訳との見方があって、「夏の夜の夢」とするのが主流だとか。Midsummer は確かに「真夏」の意味ですが、ここではもうひとつの「夏至」を意味するというのがその理由。言われてみれば物語の舞台は初夏。しかし慣例上「真夏の ・・・」で通ることが多いので、これはちょっとかわいそうな気がします。 続いてチャップリンの 「伯爵夫人」(1966)。オールドファンにはたまらないラブコメディ。マーロン・ブランドとソフィア・ローレンのドタバタ喜劇は今や貴重な映像でもあります。原題は "A Countess from Hong Kong"。Countess の意味が問題。伯爵夫人は、ソフィア・ローレン演じる主人公ナターシャを指しますが、ナターシャは実は未婚で、伯爵の娘という設定。 Countess には女伯爵(伯爵を継承する婦人)という意味もあるので、こちらが正意と思われます。実際、「伯爵婦人」として解説したものもあります。
訳間違い、というか確信犯的なものもあります。スタンリー・ドーネン監督の 「掠奪された7人の花嫁」(1954)がそれです。スタンリー・ドーネンといえば、ミュージカル映画名作中の名作、「雨に唄えば」(1952)を撮った名匠。「シャレード」(1963)なんていう軽快なサスペンスもありました。本作は、その不穏なタイトルからミステリーやサスペンスを連想させますが、実際は明るいミュージカル映画。内容を反映していない訳自体問題なのですが、その意味も内容とはちょっと違っています。 原題は "Seven Brides For Seven Brothers"、7人の兄弟に7人の花嫁、というのが直訳。内容は山奥に住む7人兄弟の話。長男が嫁をもらうと、弟たちは自分も嫁を、と町へ出かけますがうまくいきません。そこでローマ式嫁取り法なるものを実践。町から6人の女性をさらってきてしまうのです。が、大騒動を経て、6人の弟たちと6人の女性たちは最後は結ばれるという物語。 つまり、「掠奪」されたのは6人で、7人とは明らかな間違い。まあ、7の方が語呂もイメージもいいという判断で、承知の上でつけたのかもしれません。作中には、ドーネン監督ならではの見事な歌とダンスがてんこ盛り。良作なだけに、もう少しいいタイトルはなかったのか、と、悔やまれてなりません。
■そこまでやるか!?
似て非なるもの、という邦題があります。マイケル・クライトンのベストセラーを映画化した 「13ウォーリアーズ」がそのひとつ。邦題から連想されるのは「13人の戦士」という意味。これで正しいと思いきや、原題は "The 13th Warrior" だったりします。つまりは13番目の戦士。 この物語は、アントニオ・バンデラス扮するアラブの主人公が北方の地を訪れ、現地の戦士と共に謎の種族に立ち向かうと言う伝記冒険もの。戦士の数は13人。アントニオ・バンデラスが13人目。邦題は前者、洋題は後者に焦点を当てたものと言えます。 実は、この本の原題は "Eaters of the Dead" (邦題「北人伝説」)。死者を食べる人々、くらいの意味でしょうか。つまり、どちらの映画のタイトルでもないのです。まあ、ストーリーからのイメージとしては、双方に当てはまる気がしますが、希なケースではあります。
さて、ロジャー・コーマン監督作品にも不思議なタイトルの作品が存在します。その名も 「忍者と悪女」。フランシス・フォード・コッポラのお師匠さん、と呼んでもいいのでしょうか。大変な多作で知られるロジャー・コーマンですが、中期(主に1960年代)には、エドガー・アラン・ポーの怪奇小説を大量に映画化しています。これもそのひとつ。主演はビンセント・プライス。悪女は出てきますが、実は忍者などはまったく出てきません。最初は、ポーの小説に忍者が出てくるのか、と、わくわくしたものですが結局肩透かし。 内容は、中世を舞台に、魔法使い同士の対決を描いたユーモラスな物語。共演は何とボリス・カーロフ。知る人ぞ知るフランケンシュタインの怪物を演じた名優中の名優。無名の頃のジャック・ニコルソンも出演しています。 原題は "The Raven"、通常は「大鴉」と訳されています。映画の邦題だけがこんなことになってしまいました。が、確かにインパクト抜群のタイトルで、一度聞けば忘れることはありません。ここまで思い切ればむしろあっぱれ??? ほめるべきか嘆くべきか、かなり微妙なところではあります。
■極めつけの邦題
違う内容なのに同じタイトルをつけてシリーズ化を図る試みもあります。スティーブン・セガールの 「沈黙」シリーズなどはすっかり定着して、もはや名物。主演はすべてスティーブン・セガールですが、役も設定も違う作品をシリーズとして売り出したものです。いずれも勧善懲悪のアクション映画。見終わってスカーッとするのが心地良い限り。まあ、実際の続編も混じっていて、ごっちゃになってしまっているのが玉に瑕ではあります。他にも、航空パニックものの「乱気流」シリーズ、昔なら「エアポート」(大空港)シリーズがおなじみでしょうか。 これらはいずれも好評のようで、内容本位とはいきませんが、作品による誤差は少なく、十分に許容範囲だと思います。が、かつて、邦題で、いくらなんでもこれは ・・・、と絶句してしまうものがありました。 「サスペリア PART2」がそれで、これはもう極めつけ、と言えるでしょう。「サスペリア」の続編? 実は私も見事にだまされた一人。
筆者も大好きな 「サスペリア」 ("Suspiria", 1977) は、ゴシック・ホラーの名作にして美少女ホラーのはしり。そして、ダリオ・アルジェント監督の出世作でもあります。あるバレエ・スクールに転校してきた少女の恐怖の体験を描いたもの。物語以外の部分でも、冒頭、タクシー運転手の背中に映る幽霊の姿は有名になりました。ただし、これは監督のおふざけ。
それはいいとして、ダリオ・アルジェント監督は、これ以前はミステリーやサスペンスを手がけていました。いずれも今では緩慢さが残るものの、内容はなかなか。 「サスペリア2」はその中の一つであり、何と!、「サスペリア」の前 (1975) に作られていた作品なのです。原題は "Profondo Rosso" (英題 "Deep Red"、深紅の意)。ある超能力者の殺害。その直後に現場に居合わせた男が真相を追うというもの。 二つの作品に、共通の登場人物がいるわけではありません。出演者もまったく別。さらにはホラーですらない、という事実がここにあります。ホラー的な手法は見られるものの、ジャンルとしてはやはりミステリーやサスペンスと呼ぶべき内容。 実はこの映画、決して駄作ではありません。高い評価をするファンも少なくないのです。個人的にも同感です。ところが、「同じ監督のサスペリアがヒットしたから、とにかくだまくらかしてでも客を入れてしまえっ!」、とでも思ったのかどうか。いやはや、とんだタイトルと言わねばなりません。
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◆ノルマンディ上陸作戦を描いた史上空前の人間群像劇。ジョン・ウェインやヘンリー・フォンダなどをオールスター・キャスティング。戦争映画の金字塔だ。
◆若い女性が次々と誘拐。身内を誘拐されたモーガン・フリーマンが理知的な捜査官を好演。卑劣な犯罪を追う。サスペンスの佳作。
◆「コレクター」続編。今度は子供が誘拐。究極の知能犯がクロス刑事に挑戦状を叩きつける。どんでん返しも鮮やかな娯楽サスペンス。
◆人類を滅亡に導く悪魔の子・ダミアンの恐怖を描いたオカルト映画の決定版。後に続編「オーメン2 ダミアン」、「オーメン 最後の闘争」、「オーメン4」が製作された。
◆第一作はあまりにも有名なヒッチコックのサイコ・スリラー。その後アンソニー・パーキンスらがあとを継ぎ、三本の続編を手がけた。
◆シェークスピア原作のファンタスティックなロマンティック・コメディ。ミシェル・ファイファー、ソフィー・マルソー、キャリスタ・フロックハート等の豪華キャストも話題になった。
◆チャールズ・チャップリンのラブ・コメディ。マーロン・ブランドとソフィア・ローレンがドタバタ振りを披露したラブ・コメディ。チャップリンの遺作となった。
◆アラブの使者が北国で見たものは謎の怪物ヴェンドール。伝説世界を舞台にしたアクション・エンターテイメント。
◆スティーブン・セガールの「沈黙」シリーズ。とにかく強い主人公。スカッとしたい時にはうってつけの映画だ。
◆ゴシック・ホラーの代表作。けっして一人では見ないでください、というキャッチフレーズが流行。怖さはもちろんのこと、ダリオ・アルジェント監督のサービス精神旺盛さがよく分る映画でもある。
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