■世界を震撼させた「リング」の世界

鈴木光司が生んだ日本ホラー文学の金字塔「リング」。現代ジャパニーズ・ホラーの出発点と言ってもいいように思います。映像化になる前に筆者も読んだことがあり、かなり怖かったのを覚えています。その最初の映像化は1995年。テレビの単発ドラマでした。(監督:瀧川治水、脚本:飯田譲治、出演:高橋克典/三浦綺音/原田芳雄) ビデオ版では
「リング完全版」としてリリースされましたが、残念ながらVHSのみでDVD化には至っていません。
このテレビ版はもっとも原作に忠実で、後の作品では簡略化されている、貞子が人類を憎むことになる過程・動機の心理描写がより明瞭になされています。そのポイントは、貞子が両性具有であったという点にあり、これが超能力者たる母へのバッシング事件に折り重なり、見た者は一週間で死ぬ "呪いのビデオ" を生むに至るのです。
呪いのビデオでも後に省略されたポイントがあります。純粋に機械的な存在であるはずのビデオテープ。そこには定期的に暗くなる部分があるのです。やがてそれが、人間の「まばたき」であることが分り、背筋に悪寒が走るのを感じることになります。ハリウッド版ではこれが「ハエ」に変わってます。
人物設定も原作のまま。主人公の記者役は高橋克典、ともに事件を追う超能力者を原田芳雄が演じています。貞子役は三浦綺音。トップレスのシーンもあり、かなりの熱演です。とにかくもテレビ版であっても映画並みの恐怖感を見事に創出しており、当時この映像がお茶の間に流れたことは、今思うとちょっと信じ難いように思います。ホラーとしては非常に評価が高いバージョンとなっています。
映画化第一弾
「リング」(1998)(監督:中田秀夫)では、主人公の男性記者が女性記者(松嶋菜々子)に、誤って呪いのビデオを見てしまう記者の妻は子供にそれぞれ置き換えられています。貞子側の理論的背景はやや省略されましたが、親子に代わったことで、より情感を高めたアレンジといえるでしょう。
【リング概要】 同時刻に四人の若者が怪死。事件を追う記者・浅川玲子は、彼らは友人同士で、一週間前、ある貸し別荘で「呪いのビデオ」を見たという噂を聞く。そして別荘へ赴き、不審なビデオを発見。しかしその異様な内容に恐怖する。一週間で死ぬ呪いのビデオが実物であると悟った浅川は元夫の学者・高山竜司に相談。助かる方法を模索し始める。
そんな中、浅川の子・陽一が誤ってビデオを見てしまう。そうと知り焦る浅川。一方では、ビデオを生んだのが、山村貞子という女性であることが判明。貞子は念じるだけで人を殺すことができるほどの能力者だった。が、更なる調査で、貞子はすでに死んでいることが分る。しかも、いまだ死体が見つかっていないという。浅川と高山は貞子の死体を見つけ出し、供養しようとするのだったが ・・・。
「リング」には二本の続編がつくられました。「リング」から続く二つの別の世界、と呼べるでしょうか。
「らせん」(1998)(監督:飯田譲治)では、前作の関係者(浅川母子と一緒に事件を追っていた高山)はすべて死亡しています。解剖医・安藤(佐藤浩市)はその高山の死体から数字の紙切れを発見。さらに謎の腫瘍。ほどなく呪いのビデオの存在を知り、高山の助手・舞と共に事件を調べ始めます。そしてビデオがウイルスを発生させることを突き止めた安藤。しかし、ビデオを見ていない記者が死んでしまうのです。
安藤には亡くした子供がおり、このことが物語を哀感漂う雰囲気にしています。が、物語は、終盤、「死者の復活」という禁じられたモチーフへと発展していきます。映画は、原作(「らせん」)の特徴である科学的な要素を巧みに反映。ホラー的な恐怖はやや薄れましたが、SFスリラー的な趣、そして死者の誕生という身の毛もよだつおぞましさが加わっています。
一方、
「リング2」(1999)(監督:中田秀夫)は、ホラー一色のつくりとなっています。物語はやはり「リング」から続きます。
高山は貞子に殺され、浅川玲子と息子・陽一は生き残るも共に失踪。発見された貞子の死は一・二年前,つまり30年間井戸の中で生きていた事実が判明。一方、高山の助手だった高野舞(中谷美紀)が、その死に不審を抱き真相を調べ始めます。その頃、呪いのビデオの取材を引き継いだ岡崎は女子高生からビデオを入手。さらに取材を続けるうちに舞と出会い、最初の事件(「リング」の冒頭で四人が死んだ事件)で現場に居合わせた雅美に話を聞くため、精神病院へ行ってみることに。が、そこにはいまだ貞子の怨念が残っていたのです。
物語には呪いを科学的に解明しようとする教授が登場。一方では浅川玲子の子・陽一が超能力の持ち主であることがクローズアップされます。やや雑ぱく感はありますが、霊、超能力、呪い、と、現代ホラーの代表的モチーフを詰め込んだだけあって娯楽色豊かなつくりではあります。
原作ではさらに「ループ」へと続くわけですが、この作品はかなりSF的な内容となっています。「リング」の世界がはたして現実にありうるものだろうか? 物語はこの世界の恐るべき秘密へと踏み込んでいきます。当時としてはかなり新鮮なモチーフでしたが、後に「マトリクス」シリーズが類似の世界観を描いています。
とにかくも、この小説はさすがにホラーとしてつくりがたいものがあるのか、続編としての製作はされていません。しかし、「リング」には、さらに、番外編とも言うべき
「リング0-バースデイ-」(2000)(監督:鶴田法男)の製作が行われています。こちらは貞子の生前を描いた物語。貞子は原作(「リング」)でも "劇団員だった" との設定ですが、二人の貞子という新たなシチュエーションを投入しています。スケール感が縮小し、ややB級色が出てしまいましたが、物語は貞子の内面にも迫り、切なさや悲しさ、さらには貞子を取り巻く人間たちの愚かさにも及びます。ホラーとしてオーソドックスな手法を駆使しながら、人間味を丁寧に描出した作品となりました。
物語は貞子の18歳の時代に遡ります。上京した貞子(仲間由紀恵)はある劇団の研究生となります。が、ある時、主演女優が稽古中に死亡。代役として経験も実力も少ない貞子がなぜか選ばれます。そのため、他の団員たちから白い目で見られるように。一方、記者の宮地は、30年前、志津子の超能力実験中に起こった記者たちの怪死事件を追っていました。そして貞子の居所を突き止めると、その超能力を確かめようとします。が、それは更なる恐怖を生むことになるのです。
ちなみに、「リング」はハリウッドで
「ザ・リング」(2002)としてリメイク。一億ドル以上の収入を上げ、大成功を収めています。評価も上々。ただし、かなりのアレンジが加えられ、理論的背景はほぼ省略、かわりにイメージ上の恐怖感を高める演出となっています。やや評価は落としましたが、続編
「ザ・リング2」(2005)も製作されています。主演はいずれもナオミ・ワッツ。続編の方は新たにつくられたストーリー。呪いから逃れた母子が引っ越した町で、再び怪死事件が勃発。サマラの呪いが復活するという展開です。
■最恐ホラーを目指した「呪怨」
「呪怨」(2002)は、清水崇(監督・脚本)が生んだ傑作ホラー。恐怖感を極限にまで高めたストーリー。プロットや背景を重視した「リング」とは一線を画したつくりとなっています。そしてこれまでの日本のホラーと決定的に違うのは、幽霊が早い段階で姿を現すこと。ハリウッドのホラーにはよくありますが、日本では引っ張って終盤で姿を現す、というのが通例でした。そのため、後半は免疫が出来てしまうのでは? と思っていると、新たな幽霊が登場。これがまた輪をかけて怖い! 心憎い演出といえます。そして、時間が遡って因果関係を明らかにしていく、オムニバス形式をアレンジした構成も斬新でした。
【呪怨概要】 介護ボランティアの理佳(奥菜恵)が徳永幸枝の家を訪問。そこで二階から物音を聞く。上がってみるとテープでふさいだ押入れが。意を決してあけてみるとそこから俊夫と名乗る男の子が出てくる。さらに黒い影が幸枝に覆いかぶさるところを目撃。そのまま放心状態に。
その数日前。この家に引っ越してきた勝也と妻・和美、母・幸枝。ある時、和美が階段を上る子供の姿を見つけ二階へ。そしてその夜、倒れている和美を勝也が発見。その時子供の気配が。そこに妹・仁美(伊東美咲)が訪問。が、勝也はなぜか追い返してしまう。
ある夜、仁美は勤務先のトイレで不気味な声を聞く。さらに女の黒い影。慌てて警備員に訴え出る仁美。が、様子を見に行った警備員は黒い影に引き込まれてしまう。恐ろしくなった仁美が家に帰る。しかし俊雄と母・伽耶子の霊が待ち構えていた ・・・。
「呪怨」には続編
「呪怨2」(2003)(監督:清水崇)が製作されています。
女優・原瀬京子(酒井法子)が、関係者の開始や行方不明が続く呪われた家をレポート。が、その夜、恋人の車で帰る途中、大事故を起こしてしまいます。恋人は意識不明の重体。妊娠していた京子も流産。が、数日後、産婦人科の医師から、赤ん坊は無事であることを告げられるのです。
恐ろしさにおぞましさを加えたのが続編。時に吐きけがするほどの気味悪さを描出しています。そして、「リング」同様、「呪怨」も
「THE JUON」(2004)(原題 "The Grudge", 監督:清水崇/主演:サラ・ミシェル・ゲラー)としてハリウッドでリメイク。大ヒットとなりました。
■エンターテイメント・ホラー「着信アリ」
ホラー映画には常にマニアックなイメージがつきまといます。
「着信アリ」(2003)(監督:三池崇史、脚本:秋元康)は、そんなイメージを払拭するような作品。恐怖感と共にエンターテイメント性を強く意識したつくりとなっています。
[物語] 由実(柴咲コウ)の友人・陽子の携帯電話に死の着メロが流れる。日付は二日後。発信先は自分の番号だった。そして二日後、陽子からの電話を取った由実は、この時と同じせりふを聞く。その直後、陽子は電車にはねられ死んでしまう。
やがて由実は、それが死の予告を意味すること、さらに、メモリーの中から次に死ぬ相手が選ばれることを知る。そして陽子のボーイフレンドが由実の目の前で怪死。電話は由実の親友なつみにも。そこには不気味な映像も映し出されていた。
一方、由実は、同じように妹を失った葬儀屋・山下(堤真一)と知り合う。そして、事件の鍵が、子供を亡くして行方不明中の母親・水沼マリ江にあることを知る ・・・。
「リング」ではビデオでしたが、それ同様、文明の利器である携帯電話をモチーフにしています。原作・秋元康、監督・三池崇史ということでエンターテイメント色が前面に置かれましたが、そのためかどうか、プロットや整合性での見劣りは否めません。時計の針が逆回転したり、と、ちょっとやりすぎのシーンもあります。まあ、ホラーには多かれ少なかれ過剰演出はつきもの。このあたりはインパクト重視の欠点が出てしまった感じ。斬新さと娯楽性は見事に創出していますが、「リング」、「呪怨」との比較となると、やや質は落ちるのではないでしょうか。
大人気に終わった「着信アリ」は異なる雰囲気の続編がつくられました。
「着信アリ2」(2005)(監督:塚本連平、脚本:秋元康)ではさらに進化した携帯電話の機能、画像表示を巧みに利用しています。
[物語] 中華料理店主ワンが携帯電話を取ると、娘の声で、油を火にかけっぱなしという声が。そしてその夜、ワンは、電話の状況通り、火にかけた油がもとで変死してしまう。
翌日、店員の尚人(吉沢悠)は、事件を追う記者・孝子(瀬戸朝香)から死の着メロのことを聞く。そのメロディは確かにワンの携帯電話で聞いたもの。が、さらに、友人・まどかの携帯にも同じ着メロが鳴っていたことを思い出す。その頃、まどかと携帯で話していた尚人の恋人・杏子(ミムラ)は、まどかの背後に子供の姿を発見。心配になって家を訪れるが、まどかはすでに死体となってた。さらに死の着メロは杏子にも。日付は三日後。一方、孝子は、台湾でも同様の事件が起こっていることを知る ・・・。
今回は台湾へと舞台を広げてよりスケールアップ。その台湾ではリーリィという死を予告する少女が新たに登場し、さらに恐怖感を煽ります。サスペンス&ミステリー色を巧みに利用したつくりの前作でしたが、本作はホラーに特化。ただし、井戸から幽霊が出てくるシーンなど二番煎じのシーンが多く、テクニックの頼った節が多々見受けられます。娯楽色の豊かさは十分に引き継いではいますが、個人的には前作には及ばずといった印象です。
■ジャパニーズ・ホラー初期の佳作
「仄暗い水の底から」(2001)
五歳の娘・郁子(菅野莉央)とともに古い団地に引っ越してきた淑美(黒木瞳)。しかし湿気がひどく天井には水漏れらしいしみ。そんな中、娘の郁子が子供用の赤いバッグを屋上で拾ってくる。しかし子供は一人も住んでいないという管理人。管理人はバッグを捨てるが、いつの間にか淑美母娘の目に付く場所に置かれてあった。
やがて郁子は目に見えない誰かと話すそぶりが目立つように。そして、行方不明の美津子という女の子が、郁子の幼稚園に通っていたことを耳にする。その間、相変わらず天井からの水漏れは止まらず、上の部屋を訪れてみると空室。しかしそこは美津子の住んでいた部屋だった。そして淑美は、美津子が郁子を連れて行こうとしているのだと悟る ・・・。
少女の幽霊にとり憑かれた母娘の恐怖を描いたホラー。「リング」の鈴木光司×中田秀夫のコンビネーションが再び実現。非常に情緒的な展開になっていて、子を想う母親の心情が切なくなるくらいに伝わってくるストーリー。ちょっとした感動系のホラーになっています。
アパートの一室に原因不明の染み、捨てても捨てても戻ってくるバッグ、水道から髪の毛、などとというオーソドックスなモチーフを採っておきながら、主人公の追跡一本に絞り、ドラマに没頭できるスタイルとなっています。一方では切なさの中にもちょっとほっとするラスト。 やや単調気味なのは気になるところですが、情に訴えるところはやはり伝統ある和製ホラーの真骨頂といったところでしょう。
「死国」(1999)
十数年ぶりに東京から四国に帰ってきた明神ひな子(夏川結衣)。幼なじみだった日浦さよりの家へ。窓に人影を見るが誰も出てこない。しかし、さよりが16歳で亡くなっていたことを知り驚く。そして母・照子は旅に出ているのだと言う。ほどなくひな子は、もうひとりの幼なじみ・秋沢文也(筒井道隆)とも再会。同時にひな子は徐々に、さよりの影(栗山千明)を感じ始める。それを聞いた文也は最初は信じなかったが、ある時、二人でさよりの家へ入ってみると、ふすまいっぱいに張られていた御札を発見。それは四国八十八ヶ所の札所を回った証となるもの。しかしそれを見た文也は驚く。回る順番が逆なのだ。
そしておぞましい日浦家の儀式を知る。それは、死者の歳の数だけ札所を逆に回ると蘇るという逆打ちと呼ぶ儀式。照子はその逆打ちをしているのだ。が、それは、生者と死者を分ける結界を破る危険な儀式でもあった ・・・。
伝奇ホラーの第一人者、坂東眞砂子の名作の映画化(監督:長崎俊一)。死者の蘇りというモチーフには、やはりおぞましいものを感じてしまいます。一方では、怖いようで懐かしい。というのも主人公の郷愁と物語がダブっているため。そして切ない。娘を失った母親が蘇りを信じて過酷な業を積む、その想い。終始叙情的な雰囲気が漂いつつ、常にもの悲しさが残ります。
物語は淡々と静かに展開していきます。派手な演出は希薄で、瞬発力の高い恐怖を体験できるわけではありませんが、その分登場人物の内面的な切なさが心に響くのではないでしょうか。叙情ホラーの名作と呼べますが、ラストはモンスター映画に近いモチーフ。肝心なところで原作をアレンジしたのが裏目に出た印象があります。ちょっと好悪が分かれるかもしれません。
ちなみに坂東眞砂子原作作品には
「狗神」(2001)(いぬがみ、出演:天海祐希、渡部篤郎)という映画もあります。こちらも高知県の人里離れた山村を舞台にした伝記ホラー。ただし、つくりはよりアダルト、さらにカルト的な雰囲気を帯びています。