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「戦国ムービー・セレクト」

・・・ 映画で観る日本の歴史 : 戦国時代篇 ・・・


■稀少な歴史映画


 戦国時代は歴史上最も波乱の時代ですが、意外にもこの時代を舞台にした映画は稀少です。1960年代までの映画黄金期にはそれなりにつくられていましたが、DVD化されているのはわずか。70年以降は極端に数が減ります。特に、歴史映画としては数本しか製作に至っていないという寂しさ。それに対して、テレビでは、NHK大河ドラマを筆頭に、毎年のように大型歴史ドラマが制作されていますので、こと歴史モノに関しては、テレビドラマに地位を譲っているようです。


■戦国時代の再現


◆榎木孝明, 津川雅彦
◆海音寺潮五郎の名著の映画化。越後の虎と呼ばれた武将・上杉謙信(長尾景虎)を描いた歴史巨編。武田信玄との川中島決戦の壮麗なスペクタクルシーンが見所。
 その貴重な歴史モノの一本が「天と地と」(1990)。海音寺潮五郎の名作を角川春樹みずからがメガホンを取って映画化。物語は上杉謙信(長尾景虎)の半生を描いたもの。戦国中期のクライマックス、上杉謙信と武田信玄の対決を鮮やかによみがえらせています。ただし、残念なことに、さほど時代考証がされているわけではなく、多分に娯楽性優先の姿勢が取られています。
 また、無理やり二時間に抑えたせいか、実のある展開とは言えず、人間描写も十分とは言えないようです。予備知識がないと、イメージでしか展開が理解できないといった弊害は否めません。そのためやや評価を落とした作品となりました。それでも、カナダで撮影したという川中島の合戦シーンは歴史に残ると言っても過言ではない壮麗さ。総製作費は50億円に上るといわれています。
 同じく川中島の合戦をクライマックスとする映画に「風林火山」(1969)があります。こちらは武田信玄側、しかもその軍師を務めたとされる山本勘助を描いたもの。原作は井上靖のロングセラー。主演は三船敏郎、武田信玄に萬屋錦之介、悲運の姫・諏訪御前(由布)を佐久間良子が演じ、いずれも好演して話題となりました。さらに上杉謙信を石原裕次郎が演じていて、意外にはまっているのがおもしろいところです。
◆三船敏郎, 佐久間良子
◆井上靖の原作を名匠稲垣浩監督で映画化。武田信玄の軍師・山本勘助を描いた歴史大作。迫力の合戦シーンのみならず、優れた心理描写にも注目したい。。
 原作は歴史ものというよりはドラマ性に重きを置いている節がありますが、映画でも同様で、合戦シーンのみならず、心理描写にも見所を置いています。御家・諏訪家を信玄に滅ぼされたにもかかわらず、側室にされた諏訪姫・由布の悲劇。その美しい姫に、異形の勘助が恋心を抱くというロマンス。しかしそれは、決して結ばれることのない恋。殺伐とした戦国時代を背景に、情緒面を浮き立たせた展開はドラマティックな物語を生んでいます。歴史映画屈指の名作と言えます。
 ただ、(映画とは関係ありませんが) 山本勘助は謎の人物で、後の研究では、はたして信玄の軍師であったかどうかは疑問視されているようです。中には実在を疑う声まであります。いずれにせよ、長い歴史の中で、次々と尾ひれが付いて英雄に祭り上げられていったことは確かなようです。
 ちなみに「天と地と」は昭和44年にNHK大河ドラマ化(石坂浩二主演)。「風林火山」も2007年のNHK大河ドラマ。民法でも数度ドラマ化されています。


■クロサワが描く戦国


◆黒澤明, 仲代達矢
◆戦国時代、武田信玄の影武者の数奇な運命を描いた歴史超大作。人間が持つ虚実や戦争の悲劇をも浮き彫りにした世界的な名作。
 世界のクロサワこと黒澤明監督も戦国時代を舞台にした映画を数本製作しています。その代表作は「影武者」(1980)。カンヌ映画祭グランプリを受賞していて、世界的にも極めて評価が高い映画。絵画的な描写に舞台的な演出という黒澤監督独特の芸術性と、娯楽映画の真髄とを両立させた傑作で、日本映画史上五指に入る名作だと思います。
 物語は武田信玄の死から始まります。我が死を三年隠せ、との遺言で死してなお武田家の存立を画策した信玄。しかし重臣たちが影武者としたのは、瓜二つだが盗人上がりの男。織田信長、徳川家康はこの虚報に踊らされ、さらには側室たちまでだまし通し、策は成ったかに見えます。が、意外なところに落とし穴が潜んでいたのです。
 とにかくストーリーの面白さが抜群なのですが、後半には虚実に満ちた人間の浅はかさ、戦争の虚しさを見事に伝え切っています。
◆黒澤明, 仲代達矢
◆戦国時代を仮想した歴史絵巻。ある武将が、三人の息子に領地を分けたことから起こる悲劇を描く。人間の因・果・業をテーマにした文芸大作。
 この五年後に製作された「乱」(1985)でも、黒澤監督は戦国時代を背景に選んでいます。こちらはすべて架空の設定で、ベースはシェークスピアの「リヤ王」。そこに毛利元就のシチュエーションを絡めて物語化を図っています。主人公は苛烈は手段で領土を切り取ってきた戦国武将。隠居して三人の息子に城を分譲。が、欲深な長男と次男の陰謀で破滅へと追いやられていくのです。
 物語は、人間がみずから招いた因果と、そこから逃れることの出来ない業を残酷なタッチで描いています。娯楽性は犠牲となりましたが、文芸作としての完成度を極めた映画と言えます。
 同じシェークスピアを土台にした「蜘蛛巣城」(1957)も、架空の物語ですが背景は戦国時代。こちらの原作は「マクベス」で、悪妻にそそのかされ、国を乗っ取った男の悲劇を描いた作品です。目に見えるものに惑わされる人間の愚かさをダイナミックに描写しています。幻想的なモチーフも見所のひとつです。
◆三船敏郎、上原美佐
◆滅亡寸前の主家の姫を逃すべく、敵中突破を計る武将を描いた戦国冒険活劇。娯楽性に徹したつくりで痛快度は抜群。
 一方、「隠し砦の三悪人」(1958)は一転して娯楽主義に徹した映画。滅びかけた主家の唯一の血筋である姫を隣国に逃そうと奮闘する武将の物語です。ところがこの姫君がとんでもないじゃじゃ馬。さらに、途中で拾った、二人の農民あがりの落武者のコンビが漫才のような面白さ。このでこぼこコンビが、後に「スターウォーズ」のロボットコンビのキャラクターに応用されたことは有名な話。いずれにせよ、人物の思い切ったデフォルメ描写が大きな見所となっています。ただし、歴史映画というよりは冒険活劇と呼べるかもしれません。
 それから、根強いファンが多い「七人の侍」(1954)も、戦国時代が背景でした。世界的にも名の通った日本映画で、リアリズムを追求した名作。。野武士集団と戦う七人の侍を描いた映画ですが、大部隊が動く合戦シーンはありません。こちらもつくりとしては、時代活劇、いわゆるチャンバラに近い映画です。


◆市川雷蔵
◆全八作が製作。石川五右衛門や霧隠才蔵などが主役として登場。第一作の監督は名匠・山本薩夫。原作はプロレタリア運動で知られる村山知義。

■忍者の世界


 戦国時代に暗躍したといわれる忍者。有名なのは甲賀と伊賀。時代劇には根来忍者もよく登場します。他にも信州真田家が忍者を抱えていたのは有名な話。その彼らを描いた忍者映画は非常に多いのですが、かつて一世を風靡した「忍びの者」シリーズは、魔術師のように扱われがちな忍者をリアルに描いた秀作。主演は市川雷蔵。様々な時代の忍者の姿を浮き彫りにしており、いまだに高い評価を維持しています。ただし、これ以外で戦国時代が舞台で歴史背景に沿ったもの、となるとこれも数は激減します。
 もう一本、代表的な作品は「梟の城」(1999)。今や古典となりつつある司馬遼太郎の直木賞受賞作の二度目の映画化。秀吉の命を狙う忍者葛篭重蔵の生き様を描いた作品。忍者の非情な世界を壮麗な映像と共に再現しています。アクション映画的なインパクトは低めですが、裏切り、愛、信頼、と重蔵を取り巻く人間模様が大きな見所となっています。アクション一辺倒に奔りがちな忍者映画ですが、これらの作品は、人間ドラマとしても見応えあるつくりとなっています。
 やや異色ながら、コミカルな忍者映画「RED SHADOW 赤影」(2001)も捨て難い。オールドファンにはなつかしいTV「仮面の忍者 赤影」からのインスパイア作品。舞台は戦国時代中期が想定されていますが、一方では宇宙から来た未知の素材が登場。ちょっとSF的な要素も入っています。個性あふれるキャラクターは十分注目に値しますが、ちょっとシリアスなモチーフもあったり、と、つくりはさすがに今風。かなり多面的に楽しめる作品ですが、気楽に観て満足を得たい映画ではないでしょうか。


■異世界の戦国物語


◆高田美和、本郷功次郎
◆「大魔神」「大魔神怒る」「大魔神逆襲」の三作がつくられた。普段は温和な顔、怒りに触れると鬼の形相となる大魔神のイメージはあまりにも鮮烈だ。
 戦国時代を舞台にした異色作も数多くつくられています。クロサワと並んで日本が誇る名匠・溝口健二監督の怪異映画「雨月物語」(上田秋成原作)などはその代表。原作は怪談の古典としても知られますが、映画の方は戦国時代の荒んだ人間模様を浮き彫りにした文芸性の高いドラマとして高い評価を受けています。
 もうひとつ、怪現象をモチーフにしたもので有名なのが、カルト的な人気を誇る「大魔神」。全三作がつくられていますが、続編ではなく、それぞれ独立した物語。村の守り神として崇められている巨大な大魔神の石像。が、人間は醜い争いの中で、この鎧姿の偶像を壊そうとします。その時、石像は立ち上がり、殺戮と破壊をもって人間を懲らしめるという物語。
 普段は温和な表情が、鬼神の如く表情を一変させるくだりは、伝説的なシーンとして知られています。一方では人間たちのドラマも堅実に描かれており、展開面でも十分に楽しめるつくりとなっています。筆者が子供の頃は怪獣ものの延長として見ていた記憶がありますが、後に見た時はなかなかドラマティックな作品であることが分り、新たに感慨を深めた経験があります。
◆千葉真一, 夏八木勲
◆戦国時代にタイムトリップした自衛隊の一小隊を描いたSFアクション大作。騎馬武者たちに混じって出撃する戦車の姿は鮮烈だった。
 SFの世界で描かれた戦国時代もあります。半村良原作の「戦国自衛隊」(1979)。リメイクもつくられましたが、評価はこちらの方が高いようです。物語は、自衛隊の一小隊が、突如戦国時代にタイムトリップしてしまうというもの。そこで景虎(上杉謙信がモデル)とであった部隊は、合戦への参戦を決意。近代兵器で大勝。しかし、最後には時間のいたずらに驚愕することになるわけです。
 プロット細部は粗いのですが、とにかく着想そのものがあまりにも見事。ストーリーでは、別世界で生死の境をさまよわねばならない隊員たちの悲哀も描出。かなりドラマティックにストーリーを盛り上げています。ただし、当時の角川映画特有のえげつない表現もあって、倫理的または生理的な問題があることは否めません。単純に娯楽として捉えられるかどうかが、この映画の評価の分かれ目になりそうです。


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◆海音寺潮五郎
◆上杉謙信(長尾景虎)の半生を描いた歴史小説。文庫本は全三巻。武田信玄との対決・川中島の合戦は後半に描かれている。

◆井上靖
◆信玄の軍師・山本勘助を描いた戦国ロマン。恋と野望、そして忠誠、と、戦国武将の姿をダイナミックに描いている。

◆三船敏郎、山田五十鈴
◆黒澤明監督の戦国絵巻。妻にそそのかされて主君を討ち、友を裏切った武将の数奇な運命を描く。目先に捉われる人間の愚かさを描いた異色作だ。

◆志村喬,、三船敏郎
◆黒澤明監督のアクション時代劇。戦国時代。野武士の襲撃から農民たちを守ろうと立ち上がった七人の武士を描く。時代劇の最高傑作とも言われる。

◆司馬遼太郎
◆歴史小説で有名な著者だがこちらはストーリーもの。戦国時代を背景に、どろどろとした忍者の世界を描いている。

◆中井貴一、鶴田真由
◆戦国末期、秀吉に対抗する忍者・葛篭重蔵の活躍と生き様を描いた忍者映画。華麗豪奢な映像は見もの。監督は篠田正浩。

◆安藤政信、麻生久美子
◆忍者・赤影の活躍を描く。キャラクターやストーリーのみならず、ドラマティックな展開も見所。娯楽性抜群の新感覚忍者ムービーだ。SFチックでコミカルなつくりは中野裕之監督らしい。

◆坂口祐三郎、牧冬吉
◆なつかしのTVシリーズ。元は横山光輝の忍者漫画。赤影、青影、白影の忍者が活躍するアクション・エンターテイメントだった。

◆半村良
◆SF小説の金字塔。自衛隊が戦国時代にタイムスリップ! その結末には誰もが唖然とした。ドラマティックで娯楽性の強いストーリーだ。

◆江口洋介、鈴木京香
◆半村良のアイディアを元に福井晴敏が原作を担当。ストーリーもシチュエーションも一新した意欲作。地球の危機や歴史の改変等、よりSF色を強めている。

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