映画鑑賞記

狗神
いぬがみ(2001/日本/105分)
[監督] 原田眞人
[原作] 坂東眞砂子
[撮影] 藤沢順一
[音楽] 村松崇継

[出演]
天海祐希、渡部篤郎、山路和弘、遊人、矢島健一、深浦加奈子、藤村志保、淡路恵子、街田しおん、入江雅人、近内仁子、渡瀬美遊

[評価] ★★★★☆
 高知の山里・尾峰に赴任してきた若い教師・晃。親子ほども歳の違う美希と恋に落ちる。が、美希は狗神筋と呼ばれる忌まわしい血族。やがて村に不思議な凶事が次々と起こり始めると、美希に不審な目が注がれるようになるのだが・・・。呪われた血の運命と悲劇的な愛を描いた伝奇ホラー。ホラー色は薄いが巧みなつくりと端的な人間描写。ジャパニーズ・ホラーの秀作。
ストーリー
 四国・高知の山奥・尾峰。晃は教師として赴任。バイクで村を訪れましたがガス欠で立ち往生。地元製紙会社の息子・遊人に拾われ村を案内されることに。途中訪れた坊ノ宮家ではあわただしく動く人の姿が。そこで、坊之宮家が "狗神筋" という血筋であり、間もなく坊之宮家だけの先祖祭りが行われるのだということを知ります。
 その後山道でめまいを覚えた晃は失神。上質の和紙を一人でつくっている美希という女性の工房で目が覚めます。美希は坊之宮の分家の娘。すでに白髪も混じる歳の美希でしたが、若い晃は美希に惹かれ、たびたび訪れるように。そしてそんな晃に美希も徐々に惹かれ、若さを取り戻していきます。
 が、二人が付き合うほどに坊之宮家にも村にも不思議なことが。やがて村で、人が不審な死を遂げたり狂ったように暴れる人が出始めると、人々は不思議な力があるとされる狗神の女筋・美希を忌み嫌うようになっていきます。そんな中、晃と美希の仲も公然となり、晃は交際を認めてもらおうと坊之宮の分家を尋ねていったのですが、美希の様子が段々おかしくなり・・・。

コメント
 原作は坂東眞砂子の伝奇ホラー。「死国」に続く叙情ホラーの佳作ともなった本作。ホラーをモチーフにはしていますが、ホラーとしての怖さよりは、"人間という種が背負っている血" の哀しさ、醜さ、あるいは美しさが物語の本質。おもしろみは犠牲になっているものの、ドラマ性の高さとミステリアスな構成を両立させ、質の高い作品となったのではないでしょうか。
 物語は四国・高知の山奥。教師として赴任してきた若い晃(渡部篤朗)は、親子ほども歳の違う、ひとり和紙づくりをする美希(天海祐希)と恋に落ちます。が、美希の家系が "狗神" として恐れられていた忌まわしい血筋であることから、物語は悲劇的な展開へと進んでいきます。静かで緩慢で、しかし難解とも思える序盤。狗神とは一体何なのか。坊之宮家とは一体何なのか。そのあまりにも謎の多い系譜。が、中盤からはそのモチーフのすべてに意味があることを悟ります。さらに、登場人物の性格や人間性までもが、脇役でさえ端的かつ明快に描写されているのは見事でしょう。そして彼らの人間性は、終始人間味を与え続け、終盤に至ると、ストーリーにも決定的な重みを加えているのです。
 その終盤。明かされる "狗神" の本当の姿。それは決して視覚的なものではありません。が、その恐ろしさには心底から戦慄してしまいます。そしてラスト。 "二重" に衝撃的な言葉が美希から隆直に向かって発せられます。それは人類のタブーであり、 "狗神筋" の忌まわしい血の呪いを、あらためて見る者は思い知らされることになるわけです。
 それにしても本作の伏線の張りようは抜群、ではないでしょうか。まあ、わかりにくさと紙一重であるのも事実なのですが、例えば999人の獣を殺してきたという猟師の何気ない姿は、終盤でその真意が明らかになります。そして序盤で母親に気軽に話しかける百代(深浦可奈子)の姿。誰もが騙されるこの不自然な会話のシーンには驚愕の事実が隠されていることに。また、無駄なシーンと思っていた、美希が薬を取りに訪れた病院とそれに自然に応ずる看護婦の姿。実はここが物語の重要なターニング・ポイントであったことを後に観客は知ることになるのです。他にもこのようなシーンがいくつか。つまりは構成と映像のトリックを見事に活かし切り、ミステリー映画の醍醐味を意外にも味あわせてくれることにもなるのです。
 ラストシーンの余韻。この後は?と思って頭に浮かぶのが、第五部のタイトルである「不死」。そして美希と晃との短い意味深な会話。終わったかと思った物語のはずが、驚くべきことにクレジットの背景に迷い込ませた赤ん坊のカット。実はこれが物語の最後のワンピース。物語を最後まで見せず、にもかかわらず最後まできちんと語りつくす。まさに幕が下りるまで、物語り、をしているわけです。クレジットにストーリー、とは映画の構成上の掟破りとも言えますが、この統一性には感心させられてしまいます。
 ただし、真正面からドラマ性の深さに挑んだことでエンターテイメント性はやや犠牲になった感は否めません。が、それでも、もりじょうはこの驚くべき死の物語と愛の物語には感動を覚えずにはいられませんし、つくりの巧みさには感心せずにはいられません。メジャーな雰囲気に乏しいのは残念ですが、伝記ミステリーの秀作と言っていいでしょう。
* 評価やコメントは、あくまでも、"もりじょう"の個人的な感性に基づくものです。
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