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銀のエンゼル

(2004年/日本/110分)

[監督]鈴井貴之
[脚本]木田紀生
[撮影]猪本雅三
[音楽]長嶌寛幸、堀内久彦、Dennis Gunn
[出演]小日向文世、佐藤めぐみ、浅田美代子、山口もえ、大泉洋、西島秀俊、辻本祐樹、嶋田久作

[内容]

 ある日、コンビニのオーナー・昇一の妻・佐和子が交通事故で入院。妻の代わりに夜勤に出る羽目になる。深夜のコンビニには個性的な常連客たちが出入していた。しかしその一人から、自分の娘・由希が東京の大学に進学するとはじめて聞き驚く。昇一は娘に問いただそうとしたのだが ・・・。北海道御用達の鈴井貴之監督作。人間同士のちょっとした交わりとすれ違いを描くヒューマンドラマ。地味なのか繊細なのか? 面白さや感動は今ひとつながら感性を傾ければ自分なりの想い入れが生まれてきそう。
[評価]★★★☆☆

cinema review

STORY

 北海道のある小さな町。北島昇一は町の人間たちに頼まれ、農家をやめて町唯一のコンビニをはじめる。以来、昼は昇一、夜は妻・佐和子が店を切り回している。一人娘の由希は高校生で、この寂れた町を嫌い、東京の大学への進学を考えていた。が、母には相談したが娘に無関心な父には言い出せていない。昇一は由希にとってもアルバイトたちにとっても頼りない存在だった。
 ある日、佐和子が交通事故に遭い入院を余儀なくされる。全治3ヶ月の診断だった。慌てた昇一はアルバイトをやりくりしようとするがうまくいかず、その間、佐和子の代わりに自分で夜勤をする羽目になってしまう。そこではじめて深夜アルバイトの若者・佐藤と顔を合わす。深夜の常連たちに精通しており、ちょっとした気遣いを見せるが心持ちよそよそしい。
 さらに未明に商品を運んでくるお調子者のトラックの運転手・ロッキーともはじめて会うことに。ロッキーは由希を気に入り言い寄っていたがいつも袖にされていた。またある夜、昇一はかつて親しかった小料理屋の女将・明美と再会する。数年ぶりの再会だった。明美は毎夜チョコボールを買っていた。銀のエンゼルを5枚ためるとおもちゃが当たる。その運試しのようだが、それだけではなさそうだ。
 その明美から、昇一ははじめて、娘が東京の大学に行くと言っていることを聞く。ある客から聞いたというのだ。驚いた昇一は由希に問いただそうとする ・・・。

・・・

COMMENT

 北海道にこだわる鈴井貴之監督のヒューマン・ドラマ。今回は北海道の片田舎。町唯一のコンビニ、LAWSONが舞台。実在のコンビニ・チェーンの名前がメインに使われることにはやや抵抗を感じますが、作中では宣伝めいたシーンは希薄のようです。この点はリアリティ重視とも取れるので微妙なところではあります。
 物語の主人公は、そのコンビニのオーナー、北島昇一(小日向文世)。お人よしで、頼まれてコンビニをはじめるほど。娘・由希(佐藤めぐみ)やコンビニの店員たちはそんな昇一をなめきっていますが、母・佐和子(浅田美代子)だけは、責任感の強い負けず嫌いの男だと断言します。
 物語は、この昇一を中心に、登場人物同士のちょっとしたすれ違いを余情色豊かに描いています。鈴井監督独特の冒険的な行動表現で面白さを描出し、静かな感情表現で奥深さを演出。が、やはり見る側で一歩踏み込んで、人物の感情を推し量る必要はあるでしょう。表現は常に明快というわけではありません。また、そのギャップがあるからこそ、見る側の思い入れが生まれるのだと思います。
 コンビニでは様々な人物が交差します。昇一に進路を相談できないでいる由希、その由希に言い寄るトラック運転手のロッキー(大泉洋)、気配り上手ながらも他人には常に一線を置くアルバイト・佐藤(西島秀俊)、毎夜チョコボールを買い銀のエンゼルを集める小料理屋の女将(山口もえ)、夜コンビニの駐車場でダンスの練習をする由希の同級生・武(辻本祐樹)、十年近く事故死・事件死が起こっていないことを自賛する警官(嶋田久作)、毎夜店内で誰かに携帯をかけては相手にどなり続ける女。それぞれの取るに足らない行為が小さな店の中で渦巻き、しかしそれが、それぞれにとって人生の一大事であったことが後にわかります。
 由希はやがて田舎と父を遠ざけるように家出。が、それは自分自身からの逃げでした。雪が見たくてこの町に来たという佐藤。しかし彼はある罪を犯し、贖罪のためにこの町を訪れていました。自分には大事な何かが欠けている、という明美。この明美が佐藤にチョコボールの箱を選んで欲しいというシーンがあります。しかし佐藤は、自分で選んだ方が後悔しない、と告げます。明美はそれを聞くと冷めた表情で店をあとにしてしまいます。明美は自分で選んだ人生を後悔し、それを銀のエンゼルに重ね合わせていたのです。おそらくは、誰かが自分を幸福にしてくれるのではないか、と。そこには、前に進みたいと思いながらも進むことができない人間の姿があります。それは昇一にしても、由希にしても同じなのだろうと思います。
 ややまとまりにかける感は否めませんが、一方では非情に繊細な人物描写で、鈴井監督の並ではない実力をうかがい知ることができます。物語の終盤、佐藤が昇一に酒を渡して言います。「やっていけないことなんかないんですよ」と。ちょっとしたことが人生を変える、ちょっと見方を変えるだけで人生は変わる。決まりに捉われていた昇一は、最後に、自分が人そのものに目を向けていなかったことを悟るのです。それは前に進むためのまじないのようなものだったのでしょう。そして物語は、実に美しい流れで、昇一と由希の和解へとたどり着き、幕を閉じます。
 特に派手な面白さがあるわけではなく、涙するほどの感動が待ち受けているわけでもない、と、相変わらず地味、と言っては何ですが、今回は特に雪深い冬の北海道を舞台にしたことで一層そのように感じるのかもしれません。しかし、確かにエンターテイメントという点では後退しますが、繊細さと大らかさを併せ持つような雰囲気に捨てがたいものはあります。近付けば近付くほど感性を豊かにしてくれる映画、とでも呼べるでしょうか。

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