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蜘蛛巣城

(1957年/日本/110分)

[監督]黒澤明
[原作]ウィリアム・シェークスピア(アンクレジット)
[脚本]小国英雄、橋本忍、菊島隆三、黒澤明
[撮影]中井朝一
[音楽]佐藤勝
[出演]三船敏郎、山田五十鈴、志村喬、久保明、太刀川洋一、千秋実、佐々木孝丸、清水元、高堂国典、上田吉二郎、三好栄子、浪花千栄子

[内容]

 戦国時代。鷲津武時と三木義明は、砦から蜘蛛巣城に向かう途中物の怪に会い恐るべき予言を告げられる。ほどなく武時は妻・浅茅の唆言により主・国春を暗殺。予言通りみずから城主となる。が予言には、次は義明の子が城主になるとの続きがあった ・・・。シェークスピアの「マクベス」からヒントを得てつくられた戦国絵巻。黒澤監督には珍しく幽玄に満ちた雰囲気を醸成。人の我の醜さと業がまねく恐怖を浮き彫りにした悲劇の名作。
[評価]★★★☆☆

cinema review

STORY

 戦国時代。蜘蛛巣城の城主・都築国春の許に、北の館(たち)の主・藤巻が謀反したとの報せが入る。三の砦、四の砦、五の砦は次々に落とされ劣勢。が、一の砦の将・鷲津武時と二の砦の将・三木義明の奮戦により鎮静。藤巻は武時の手で斬首される。
 武時と義明は戦勝報告に蜘蛛巣城へ向かう。その手前、蜘蛛手の森でのこと。勝手知ったるはずの森でなぜか二人は道に迷う。やがて粗末な小屋を発見。中をのぞいてみると化生の者とも思われる老婆が糸車を回していた。そこで老婆は驚くべき予言を告げる。今宵、武時は北の館の主に昇進、ゆくゆくは蜘蛛巣城の城主になる。今宵、義明は一の砦の将に昇進、義明の子はやがて蜘蛛巣城の城主になる、と。そうして老婆は風のように消えてしまう。
 半信半疑の二人だったが、その夜、予言通り武時は北の館の主に、義明は一の砦の将に賞される。それからしばらく。国春が北の館に下向。すると武時の妻・浅茅は、国春を殺すようけしかける。義明が物の怪の予言を国春に密告すれば、国春は武時を攻めてくると言うのだ。そして深夜、武時は国春を暗殺。義明の協力で蜘蛛巣城に入城を果たし、城主に納まる。
 子のいない武時は、義明の子・義照を世継に指名して予言通りの事実をつくろうと考える。そうすれば三木親子も味方に取り込め、自分は城主として安泰のはずだ。が、浅茅は強硬に反対する。その時浅茅は身ごもっていたのだ ・・・。

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COMMENT

 黒澤明監督の戦国モノ。シェークスピアの四大悲劇の一つ「マクベス」を素材にした作品。ほぼ原作通りのストーリーですがなぜかアンクレジット。内容はといえば、幻想と恐怖の世界が見事に構築されており、「マクベス」の映像化では史上最高との声もあるほどです。ただひとつ残念なのは、当時の風潮であった早口のセリフと録音状態の悪さのためにセリフが聞き取りにくいことでしょうか。
 舞台は戦国時代。架空の城、蜘蛛巣城。火縄銃などが出てこないことから、時代は15世紀末から16世紀初頭あたりでしょうか。傘下の将、鷲津武時(三船敏郎)と三木義明(千明実)は森で迷い、化生の者(浪花千栄子)から予言を告げられます。武時は蜘蛛巣城の主に、のちには義明の子が主に、と。はたして武時は妻・浅茅(山田五十鈴)の唆言により城主を暗殺。武時と義明は予言が真実となったことを悟るのです。それなら次の城主は義明の子・義照になる。恐れた武時は義照を世継にして身の安泰を図ろうとします。が、浅茅は身ごもってしまうのです。そして心変わりした武時は義明をも暗殺。が、義照は逃げ仰せ、やがて復讐に立ち上がることとなるのです。
 全編を支配する森の霧の幻想。その象徴が物の怪。対する人間の心の醜さは血によって象徴されています。「血が落ちない」と、狂ったように手を洗う浅茅の姿は怪談話そのもの。思えば「浅茅」とは、「雨月物語」に出てくる幽霊が住む場所でもあります。また、血塗られた壁に囲まれて、血だらけの槍をつかんだまま放心した武時も同様。最後、槍を全身に受けての凄まじい形相は、見る者を恐怖させるに十分な生々しさ。当時の黒沢監督の生臭い表現力が最も発揮された作品とも言えます。
 鷲津武時は、物の怪に会わなければどうなっていたろうか?しかし物語は運命を否定します。はたして予言通りになったと言えるのか、それとも予言にあやつられてしまったのか、その混乱をそのまま人の狂気に結び付けていることからそれはわかります。つまりは、すべては人間の持つ業が生んだとしか言いようがないのです。
 さて、実はこの物語の結末はまだついていないように思えます。予言はどうであったか。義明の子・義照が城主になる。しかし義照は先君の子・国丸を奉じて挙兵したことになっています。それなら、やがては義照が国丸を殺すことにはならないか? 逃れられない業が、人間そのものの宿命として描かれているような気もします。
 非情に残酷な物語で、戦国という華やかになりがちな背景からはおよそ想像できない世界かもしれません。文芸作であって娯楽作でない、と言いきるのは簡単ですが、映画ファンは面白さを求めるのが本能。実際に見てどこまで割り切れるかは難しいところ。黒澤作品の中でも高評価ではありますが、それに比して人気が今ひとつなのはやむをえないことと言えます。

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