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Love Letter

(1995年/日本/117分)

[監督]岩井俊二
[脚本]岩井俊二
[撮影]篠田昇
[音楽]REMEDIOS
[出演]中山美穂、豊川悦司、酒井美紀、柏原崇、范文雀、篠原勝之、加賀まりこ、鈴木蘭々、中村久美、光石研

[内容]

 恋人の三回忌で発見した彼の中学時代のアルバム。今はもうないという小樽の住所に、いまだ吹っ切れないでいる博子は手紙を書く。が、ある日来るはずのない返事が。やがて相手が同姓同名の女子生徒だったことを知るのだが ・・・。過去を振り返ることで自分を再生させていく人間の姿を描いたリリカルな愛のドラマ。あふれる透明感とあまりにも繊細な心情描写は見事。
[評価]★★★★☆

cinema review

STORY

 雪が積もる神戸。渡辺博子は藤井樹の三回忌へ。山岳事故で亡くなった樹は博子の恋人。その帰り、樹の母に誘われ家に寄ると、中学時代の卒業アルバムを見せてもらうことに。そこは北海道・小樽の中学校。博子はアルバムの中に樹の名前を見つけるとメモに取ります。今は国道になって存在しない住所。しかし博子は届くはずのないその住所に手紙を書くのでした。
 ほどなく、小樽の藤井樹の家に手紙が届きます。実は同姓同名の別人。樹は博子の名前に覚えがなく訝しがりながらも茶目っ気で返事を書くことにします。返事がきて驚く博子。そして再び手紙を書き始めます。もはやそれは、博子にとって天国への手紙。ある時、樹の元登山仲間でガラス職人の秋葉茂にこのことを打ち明けます。現実主義の秋葉は事情を知るため、博子を誘い小樽を訪れることに。そして同姓同名の樹が中学時代の同じクラスにいたことを知ります。しかも自分に似ているという話に戸惑う博子。彼女は中学時代の恋人で、彼女に似ている自分は身代わりだったのかもしれない。が、本人にはすれ違いで会えずじまい。
 神戸に帰ると再び手紙を書き始める博子。彼の死だけを隠して事情を打ち明けます。そして昔の樹のことをもっと知りたい、と書き添えます。同姓同名にまつわる忌まわしい出来事がたくさん思い起こされる小樽の樹。思い出に耽りながら、博子に快く返事を書き始めます。何度も繰り返される手紙のやり取り。博子は、その中で、二人の樹が恋人同士ではなかったことを知るのでしたが・・・。

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COMMENT

 岩井俊二監督の長編映画デビュー作。終始透明感のある背景と雰囲気、そしてリリカルな心理描写で見事に人間の心の再生を描ききっています。そしてこの映画でキーとなる "手紙" 。手紙だからこそ埋めることのできる心の隙間。その過程が実に繊細に表現されているのではないでしょうか。
 物語は、主人公博子が、三年前に死んだ恋人の中学時代のアルバムを見つけるところから始まります。今は国道になってないという小樽の住所。博子はそこに手紙を出します。そこにはむなしすぎる言葉。 "あなたは元気ですか。わたしは元気です。" それは天国の恋人に向けた手紙のつもりでした。が、返って来るはずのない返事が。しかし物語はあらかじめその種明かしをして謎として残しません。そこには同姓同名の元同級生が住んでいたのです。大事なのはそれを受け取る博子の心情。見る者は博子の心の中へと入っていきます。天国からの手紙だと言うその姿はあまりに脆くて切ないもの。そこに真実や未来を求める人間の姿はありません。
 中盤では事情を悟った博子と彼女・樹との手紙のやり取りが描かれます。ただひたすらに中学時代の樹のことを知りたいという博子。彼・樹の死を知らない彼女・樹は無邪気に、そして仕事をおろそかにするほど夢中になって思い出を綴ります。博子と樹の中の時間が止まり、中学時代のエピソードが再現されていくのです。やがて呪文が解けたように動き出す二人の時。博子を動かしたものは一体なんだったのでしょうか。それは、手紙の中に隠された彼・樹の想い、だったのではないでしょうか。
 物語中ほとんど触れられない博子と彼・樹のエピソード。執拗に過去にこだわる博子の、彼・樹との思い出は、彼女・樹の思い出によって満たされたのかもしれません。終盤、それまで語られることのなかった手紙の中の主人公・藤井樹の心情が、ついに伝えられます。しかし、最後に藤井樹の心を推し量ろうとした時、そして、それを博子の想いと重ね合わせた時、より大きな感動を覚えずにはいられません。人の心の機微が見事に表現されていると思います。
 渡辺博子と藤井樹の二役をこなした中山美穂。凛とした博子、キュートな樹。二人の微妙な仕草の違いがをうまく人物像を表していて好演ではないでしょうか。ただ、風邪をひいているとの設定で、出ていない鼻をすするのはさすがに不自然に感じてしまい、その点だけはちょっと同情してしまいます。
 最後、雪山を訪れる秋葉と博子。そこで "吹っ切らなあかん" と博子に言う秋葉。しかしそれは自分に言い聞かせる言葉でもあったわけです。 "あなたは元気ですか。わたしは元気です。" 叫ぶ博子の言葉にもはやむなしさはありません。そして博子の最後の手紙。その中身はまさに一人の人間が再生した証であることがわかります。博子のあまりにも繊細な心の変遷が、見事にこの一連のシーンで収束しているように思います。爽快感いっぱいのこのラスト。とても印象的ではなかったでしょうか。リリカルなヒューマンドラマの秀作と言っていいと思います。

(キングレコード)
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(花とアリス、四月物語)
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(大停電の夜に、ハサミ男)

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 岩井俊二監督の同系色作品としては、「四月物語」(主演:松たか子)、「花とアリス」(主演:鈴木杏、蒼井優)があります。いずれも少女の恋や友情を描いたもの。繊細で透明感があふれた名作です。
「四月物語」(1998年/日本) 「花とアリス」(2003年/日本)

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