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上意討ち 拝領妻始末

(1967年/日本/121分)

[監督]小林正樹
[原作]滝口康彦『拝領妻始末』
[脚本]橋本忍
[撮影]山田一夫
[音楽]武満徹
[出演]三船敏郎、司葉子、加藤剛、神山繁、三島雅夫、山形勲、江原達怡、松村達雄、佐々木孝丸、浜村純、市原悦子、大塚道子、仲代達矢

[内容]

 江戸時代。ある日、会津藩士・笹原伊三郎は、暴力沙汰を起こして暇を出された大奥のいちを、長男・与五郎の嫁にせよとの命を受ける。やむなくこれを受ける伊三郎だが、意外にもいちは明るい働き者で、与五郎とも仲睦まじくなる。が、二年後、今度はいちを大奥へ戻せとの命が下る ・・・。小林正樹監督の時代悲劇。武家社会の理不尽さを背景に、それに反発する人間たちの生き様を描く。今となってはややだれ気味の展開だが、ストーリーそのものは力強く美しい。さらに、小林正樹作品ならではの様式美がじっくりと堪能できる。
[評価]★★★☆☆

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STORY

 江戸時代、享保年間。会津松平藩二十四万石に、馬廻り三百石・笹原伊三郎なる藩士がいた。親友の国廻り役・浅野帯刀と並び、藩内屈指の剣豪である。伊三郎は二十年ほど前に笹原家に養子に入り、狭量な妻・すがの尻に敷かれながらも我慢してここまで無事に務め上げてきた。あとは長男・与五郎に嫁を迎え、孫を見るのが唯一の楽しみだった。
 ある日、伊三郎が城勤めから帰ると、側用人・高橋外記が待っていた。側用人によると、大奥のいちの方が御意にかなわず暇を出されたという。そこで与五郎の嫁に下されるというのだ。いちは既に殿の子を産んでいた。しかし新しい側室・おたまを見ると逆上して掴みかかり、さらに藩主・正容(まさかた)にも平手打ちを食らわすという不祥事を起こしていた。今や城内で知らぬ者はいない。
 伊三郎は悩んだ末、側用人に畏れ多いと辞退の旨を返答する。が、これは断ることのできぬ上意であった。そこに与五郎みずからが現れ、おいち拝領を承諾するのだった。しかし案に反していちは穏やかだった。すがの冷たい仕打ちにもよく耐え、明るく家事をこなした。たちまち与五郎といちは、互いにいたわり合う仲睦まじい夫婦となる。不安を抱いていた伊三郎も、二人とおらぬ嫁、とすっかり信頼を置く。そしてみずから隠居し、夫婦の肩身を広げようとするのだった。
 二年近く後、いちは女子・とみを産み、与五郎と伊三郎は喜んでいた。一方同じ頃、城に、江戸にいた嫡子・松平正甫(まさもと)が病死したとの報せが入る。次の嫡子は、いちが二年前に産んだ菊千代だ。ほどなくして、馬廻り組頭・土屋庄兵衛が伊三郎を訪ね、無道な言葉を発する。次期藩主の生母であるいちを家臣の嫁にしておくことはできない、大奥に返上せよと言うのだ ・・・。

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COMMENT

 「切腹」(1962)に続く滝口康彦原作の映画化。二作とも監督は小林正樹。江戸時代、会津藩主のひとりの側室をめぐる騒動を通じて、封建社会の理不尽さ、生死を超えた純愛の美しさ、そして正義を貫こうとする武士の生き様を描きます。もうひとつ、大きな見所となっているのが、小林正樹監督ならではの様式美。シンメトリーを多用した美しい構図、3Dモノクロとでも言うべき驚異的な奥行き感。背景の美しさにも息を呑んでしまいます。ただ、テンポの早い現代の作品群にあっては、ややもどかしい展開ではあります。
 物語の舞台は享保年間(1716〜1735)の会津。会津松平藩二十四万石はもちろん実在の藩で、松村達雄演ずる藩主・松平正容(まさかた)も実在の当主です。さらに、その子・正甫(まさもと)がよう逝したのも史実に基づいており、あとを継いだ松平容貞(かたさだ)も同様、それぞれの没年・生年もまた史実通りの設定です。この物語のリアルさは、こんなところにも一因があるのでしょう。
 主人公は、その会津藩の藩士・笹原伊三郎(三船敏郎)。ある日、側用人(神山繁)が難題を持ちかけてきます。藩主の側室・いち(司葉子)を長男・与五郎(加藤剛)の嫁にせよというのです。いちは男子を産むも新しい側室を見るや掴みかかり、藩主にまで暴力を振るった悪評高い女性でした。が、これを断り切れず、いちを迎えることとなってしまうのです。
 が、意外にもいちは姑・すが(大塚道子)の冷遇にも耐え、よく働き、与五郎と愛を深め合っていきます。やがて二人の間には女児が誕生。笹原家は順風満帆のように思えました。ところが、ここに一大事が勃発します。松平家嫡子・正甫が急死。いちが産んだ菊千代が嫡子となったのです。藩主の生母が家臣の妻であるわけにはいかない。家老・簗瀬三左衛門(三島雅夫)は側用人と諮り、与五郎にいちを返上するよう命じます。しかしすでにいちを深く愛していた与五郎は、家が潰れることになっても、とこれを拒否。いちもまた与五郎への愛から、家を潰しても添い遂げる決意を告げるのです。二人の愛に心打たれた伊三郎も腹を決めます。二人の愛を守り正義を貫くこと。それは、養子として笹原家に入って以来、ひたすら家を守ることに汲々としてきた伊三郎が、はじめて感じる生きがいでもありました。ここに、伊三郎と与五郎に対し、「上意討ち」の命が下ってしまうわけです。
 終盤には、派手な殺陣が、さらに伊三郎と親友・浅野帯刀(仲代達矢)が対決する名シーンも用意されています。三船敏郎対仲代達矢は、黒澤明監督の「用心棒」では華麗さを見せ、同じく「椿三十郎」では凄絶さを見せました。ここでは、小林正樹流なのでしょうか、美を追求した決闘シーンを見ることができます。時代劇ファンには大いに見所でしょう。
 本作の卓越した人間描写はやはり特筆すべきでしょう。まるで登場人物の心がガラス張りになったようです。それぞれの苦悩と決意、愛や怒り、ここでの人間をじっくりと見せる手法は、見事、と思わせる隙もないほどリアルです。そして、同監督の「怪談」でもそうでしたが、構図の美しさは絶品と言えます。左右対称の構図を多用し、さらに人間を手前奥に別々に配置する奥行き感。それをそうと思わせない自然さは驚嘆すべきではないでしょうか。ただし、通常の音楽がほとんど入っていないため、少なからず寂寞感は生じています。
 物語は悲劇で終わります。家よりも愛を取る、という当時の武士道では掟破りの選択をした与五郎。当時受身一辺倒だった女性にも関わらずみずから運命を選択したいち。二人の最期はあまりにもはかなく、しかし手を取り合うその姿は涙を誘いました。物語は最後、乳母・きく(市原悦子)が、一人残された二人の子・とみを抱いて去ってゆくシーンで幕を閉じます。親から子へ、子から孫へ。運命がめぐりめぐってとみの命を生かし、それを一筋の光明とした、と呼べるでしょうか。
 時代劇としては、本作は名作に入るのだろうと思います。なかなか二度、三度と見たくなるような映画ではないのですが、一度見て感動を覚えれば忘れることはないのではないでしょうか。つまりは、昨今では少なくなりつつある“印象深い”映画、と呼べます。個人的には、小林正樹作品はもっともっと見直されても良いように思います。

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