Index

HOME > 映画TOP > 鑑賞記(邦画)

Information


酔いどれ天使

(1948年/日本/98分)

[監督]黒澤明
[脚本]植草圭之助 / 黒澤明
[撮影]伊藤武夫
[音楽]早坂文雄
[出演] 志村喬、三船敏郎、山本禮三郎、木暮実千代、中北千枝子、千石規子、笠置シズ子、進藤英太郎、清水将夫、殿山泰司、久我美子、飯田蝶子

[内容]

 口が悪く呑んだくれの医師・眞田の許に、やくざ・松永が手の治療にやってくる。松永が重い肺病だと察した眞田は摂生を勧めるが顔を合わせるたびにけんか。やがて松永もその気になるが、そんな時、松永の兄貴分・岡田が出所してくる ・・・。黒沢監督初期の名品。口汚い医師と肺病のやくざとの交流を描いたヒューマン・ドラマ。当時の荒んだ社会事情もあって社会派の匂いも大きい。力強い人間ドラマ。
[評価]★★★☆☆

cinema review

STORY

 戦後間もない頃。商店・飲み屋が立ち並ぶ南新町マーケット。そのはずれ、腐った沼のほとりにみすぼらしい眞田病院は建っていた。医師は口汚い呑んだくれの眞田一人。母と、入獄中のやくざの夫を持つ美代が手伝いをしていた。
 その眞田病院に、商店街を仕切るやくざ者・松永が、手にピストルの傷を受けてやって来る。毒づきながらも治療する眞田。途中、ふと気になって胸を診ると、重い肺病であることが分る。
 他の病院でレントゲンを撮るよう勧めるが松永は取り合わず、しまいにはけんかとなり、松永は出て行ってしまう。しかし翌日、気になった眞田は松永を探し出して再び諭す。すると数日後、松永はレントゲンを撮って再び病院にやってくる。会えば必ず喧嘩になる二人だったが、やがて松永は眞田の言うとおり摂生をする気になり、酒も女も絶っていく。
 そんな中、松永の兄貴分で美代の夫、岡田が出所してくる。そして松永のシマで幅を利かせるようになる。すると松永は岡田と対抗するかのように、再び酒に女にばくちに、とのめり込んでいく。眞田も愛想を尽かし始めた時、松永が吐血したとの知らせが入ってくる ・・・。

・・・

COMMENT

 黒澤明監督の力強い人間ドラマ。戦後間もない、当時の社会状況が垣間見えたりして、今観るのと当時観るのとでは、おそらくは相当な印象の違いだろうと思います。一方、人間個々の本質と環境との切れようのない関わりが生む悲劇、という点では、時代に関わらず共通するテーマであり、本作が名作である位置づけを拒むものではありません。
 物語の舞台は、やくざ者・松永(三船敏郎)が仕切るある商店街。が、酔いどれ天使とは、この町のはずれに住む医師・眞田(志村喬)のこと。呑んべえで短期で口の悪いこの男が、みずからを、天使だと吹くのです。一方では人情家で患者を見捨てられないというのがミソ。松永が重い肺病持ちだと知ると、つきまとって養生を勧めるわけです。
 しかし相手もやくざ。顔を合わせればけんかが始まり、と、松永はなかなか言うことを利かないのですが、一方では死の恐怖に怯える様子もありありとうかがえます。やがては、ようやく節制をする気になりますが、兄貴分・岡田(山本禮三郎)の出現によって、再び元の木阿弥へと帰すわけです。肺病病みがばれて、その岡田や親分から邪険にされ始めながら、それでも義理人情の世界を信じる松永。一瞬は、松永を慕うぎん(千石規子)の誘いで足を洗う決心をしかけますが、松永を取り巻く環境は、それを許さなかったのです。
 特に登場人物の心理に大掛かりなストーリー的化粧をせず、リアルな心理の変遷に徹したのが人物描写の特徴。終盤、松永が岡田を殺しに行ったのも、美代(中北千枝子)を救う良心があったため、といきたいところですが、内実は復讐心と自分自身のやりきれなさから来るものとなっているのです。人間の中にある泥臭い本質に迫るのは、以降の黒澤作品共通の長所とも言えます。最後、眞田が松永をくずだと言うくだりも、悔しさ・同情・哀れみ・軽蔑、と、そんな複雑な心理が働いているのでしょう。こんなところに、黒澤映画が、完全なハッピーエンドや完全なバッドエンドにならない一因があるのかもしれません。
 当時難病の肺結核、戦後間もない時代背景、と、当時の荒んだ状況が物語には大きく影響しています。その分だけ緊迫感が薄れているということはあると思います。が、やはり真に迫った人間描写は黒澤監督ならではのもので、見事な力強さを発揮しているのではないでしょうか。また、やむをえないとはいえ、フィルムの状態も決して良いものとは言えず、映画の魅力を伝えきっていないのは残念です。

(東宝)
amazon DVD link
黒澤明関連作
(羅生門、七人の侍)
志村喬関連作
(七人の侍、生きる)
三船敏郎関連作
(用心棒、椿三十朗)

www.sasaraan.net

・・・

(c) morijoh