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「不条理の世界」

・・・傑作か!愚作か!理性を超えた映画 ・・・

 一口に不条理映画といってもその定義は難しく、様々な見方が考えられます。その多くは筋道が通らない非合理的なストーリー。特に象徴手法を用いることで、芸術的感性やイメージを伝えようとする、あるいは社会への諧謔などを表現します。今回は、その中でも、観ていて頭がヘンになりそうな映画、あるいは、これをつくった人間はよほどの天才かよほどのへそ曲がりに違いない、と思える作品を思い起こしてみます。いずれも、おもしろい、かどうかは保証の限りではありません。
◆深層心理を完全映像化
「マルホランド・ドライブ」(2001)
[監督・脚本] デビッド・リンチ
[撮影] ピーター・デミング
[出演] ナオミ・ワッツ、ローラ・エレナ・ハリング、ジャスティン・セロー、アン・ミラー
 ある夜、マルホランド・ドライブで車同士が正面衝突。乗っていた女はよろめきながらも町へたどり着き、ベティの家にたどり着く。ベティはこの叔母の家に住むことになったばかりで、部屋にいたリタと名乗る女を叔母の友人と勘違いしてしまう。
 ある映画会社。映画監督アダムは、カミーラという女優を主演にするよう圧力を受けていた。アダムはこれを拒むが、その圧力は徐々に過激になっていく。一方、あるビルの一室。男はみずから雇った男を射殺。それを目撃した人間も次々手をかけ、探している人間が載っているブラックリストを奪っていく。
 やがてベティは、リタが叔母の友人でないこと、さらには彼女が記憶喪失であると悟る。彼女のバッグの中には大量の札束と不思議な青い鍵。ベティはリタの記憶を取り戻そうと決意。すると、自動車事故、マルホランド・ドライブ、そしてダイアン・セルウィンという名前が浮かび上がってくる ・・・。

 デビッド・リンチの難解な不条理ミステリー。不条理モノをここまでエンターテイメント色豊かに仕上げるというのは見事なもの。一人の人間が二つの名前を持ち、二人の別人がひとつの名前を持つ。時間はさかのぼり、進んだかと思えばまた戻っていく。このシーンは夢なのか現実なのか。実体のないあいまいさが、見る者を混乱させ続けます。
 この物語は、感性で捉えるのがベストです。が、あえて理解しようとするなら一度見ただけでは不可能です。つくりそのものが一度ではわからないようにできているからです。
 物語の約三分の二(劇場の幻想的なシーンあたり)はベティ(= ダイアン)の心の中の世界。そして後半は現実の回想シーンと捉えることができます。夢の中に出てくる様々な人物の多くはダイアンの分身。その中で、現実の世界で自分の愛するカミーラを奪おうとする、映画監督アダムともうひとりの女の愛人(夢の中のカミーラ)をくっつけようとするのです。そのことで、カミーラ(現実のカミーラ)を自分だけのものにしたいという願望を成就させようとしていると見れます。
 本作の見事さは、なんと言っても、ダイアンの潜在意識の完璧な映像化にあります。そこにあるのはダイアンの嫉妬からくる心の虚しさ。とにかくも二時間半失うことのない力強さはリンチ・ワールドの極致。見るたびに深みにはまってゆく心理ミステリーの傑作と呼べます。

◆文学史上の金字塔
「審判」(1963)
[監督・脚本] オーソン・ウェルズ
[原作] フランツ・カフカ
[出演] アンソニー・パーキンス、ジャンヌ・モロー、ロミー・シュナイダー、オーソン・ウェルズ
 平凡な銀行員の男Kは、ある朝、突如検察と刑事の訪問を受け、逮捕状態であると宣告される。以来、当局の監視を受け続けることになるが、何の罪なのか身に覚えがなく、聞いても誰も知らないと言う。やがて、罪の内容が明らかにされないまま審問会が開廷。しかし判事はKの職業すら把握しておらず、滑稽に思ったKは途中で出てしまう。
 ほどなく、心配した叔父が弁護士を紹介する。弁護士はコネを使って助けてやると言うが、一方で何ヶ月も弁護士に頼み続けている男に気付き失望する。さらにKは、やはり役所にコネを持つという画家に会いに出かけるのだったが ・・・。

 外国文学に通じた人ならもはや説明不要、カフカの不条理小説の金字塔が原作。オーソン・ウェルズが舞台を現代に置き換えて映画化。独特の映像(モノクローム)で、幻影感と無機質感、そして脱力感を醸成しています。
 一人の男が告訴されるが誰もどんな罪なのか知らない。このミステリアスな冒頭で、たちまち見るものは引き込まれていきます。やがて、徐々に孤立感を高めていく主人公。実体や本質を知らないまま言葉をもてあそぶ知識階級の人間たち。あまりにも理不尽な状況の中に置かれて苦悩する主人公Kは悲劇的な結末へと導かれていくのです。が、当然のことながら一筋縄ではいかない映画。見る者の理解を超えた展開が次々と待ち受けています。
 つまらない、いや、傑作だ、と、本作の評価は真っ二つ。ちなみに本作は1992年にも再映画化。チェコという本来の背景はこちらの方が色濃く出ています。監督はデビッド・ジョーンズ、主演はカイル・マクラクラン。筆者は頭が痛くなりそうなのでご免被りますが、物好きな方は二本続けてどうぞ。

◆もう何がなんだか
「裸のランチ」(1991)
[監督・脚本] デビッド・クローネンバーグ
[原作] ウィリアム・S・バロウズ
[出演] ピーター・ウェラー、ジュディ・デイビス、イアン・ホルム、ジュリアン・サンズ、ロイ・シェイダー
 ニューヨークで害虫駆除をしていたビルは、タンクの中の殺虫剤が少ないことに気付く。妻ジョーンが、抜き取って麻薬として使っていたのだ。そしてそれをかぎつけた麻薬捜査官がビルを連行。刑事は取調室に巨大な虫を残して去っていく。
 すると虫は、自分はお前の上司だ、妻はインターゾーン商会のスパイだから殺せ、と、ビルに命令。が、ビルは虫を叩き殺してしまう。警察を抜け出したビルは、同僚から薦められベンウェイという医師に相談。麻薬をやめるための黒い粉末をもらい受ける。が、帰宅して試したところ、かえってハイになり、戯れているうちにジョーンを射殺してしまう。そのビルの前に、今度は人間の姿をした虫・マグワンプが出現。クラーク・ノヴァというタイプライターを買い、インターゾーンへ逃げるようチケットを渡される ・・・。

 ウィリアム・S・バロウズのドラッグ小説を元にデビッド・クローネンバーグが映画化。作中、ウィリアム・テルごっこで妻を射殺、というくだりは、バロウズ自身の起こした事件。伝記的なモチーフも巧みに織り交ぜ、映画自身の異常性を高めています。つまりはすべての存在の不確かさを描くことで、それこそが麻薬による異常な世界の本質であることを作品は伝えているのです。
 物語は、ある麻薬中毒者の現実と妄想が交錯する世界を描いたもの。途中からは言葉をしゃべる巨大な昆虫が登場。しかもタイプライターに変身するスグレモノ!? 麻薬に侵された混沌とした心の世界を、なんともグロテスクに象徴させています。
 いずれにせよ、後半は難解というよりは何がなんだか分らない世界。しかし麻薬中毒の主人公は、実話と同じように、一大傑作小説を物語の中で完成させます。麻薬がもたらしたものは狂気なのか才能なのか。が、物語は何も明言することなく幕を閉じていくのです。一度見れば一生忘れられない映画になることは違いありません。

◆サスペンスなのだろうか?
「北の橋」(1981)
[監督] ジャック・リベット
[脚本] ビュル・オジエ、パスカル・オジエ、スザンヌ・シフマン、ジャック・リベット
[出演] ビュル・オジエ、パスカル・オジエ、ピエール・クレマンティ、ジャン・フランソワ・ステヴナン
 パリ。バチストはバイクで刑務所から出たばかりの女性マリーをひきそうになり、転倒してしまう。行くあてのない二人は、これがきっかけで共に行動するように。ほどなく、マリーはかつての恋人ジュリアンと再会。しかしバチストはジュリアンの持つかばんに興味を示す。
 翌日、ジュリアンのかばんをすりかえて中を見る二人。するとそこには犯罪事件の切抜きとパリの地図が。地図は渦巻状に線で区切られており、バチストはこれが双六であることに気付く。そのいくつかのマスは罠だと言うバチストは、マリーと共に地図の謎を追おうとする。が、途中、バチストがマックスと呼ぶ男たちのひとりが死んでいるのを発見してしまう ・・・。

 ジャック・リベット監督の不条理サスペンス。本作を名作と呼ぶ映画ファンも多いのですが、ストーリーは決して論理的展開に則ったものではありません。解決することのない地図の謎をめぐって、空手好きの若い女性バチストと気弱な中年女性マリーの静かな冒険が進行していきます。
 そして賛否を呼んだのが20分にも及ぶ導入部。ひたすらBGMと共にパリの街を映してゆくだけの映像。見る者がこれを乗り切ったかと思うと、一向に背景の見えてこない双六事件。地図に秘められた意味は何なのか? バチストがやたらとマックスと呼ぶ男たちの謎。が、わくわくすべきなのか、ドラマに浸るべきなのか、それとも笑うべきなのか。理解しようとすべきなのか、自由に解釈すべきなのか。もはや見る人個々に委ねるしかないようです。感性主義に奔っていたフランス映画の、一つの到達点を示す作品なのかもしれません。

◆いやどうも吐き気が・・・
「キングダム」(1994-1997)
[監督] ラース・フォン・トリアー、モーデン・アンブレズ
[原作・脚本] ラース・フォン・トリアー
[出演] エルンスト・フーゴ・イエアゴ、セーン・ビルマール、キルステン・ロルフェス、ブリジッテ・ラアブイェルグ
 コペンハーゲンの巨大病院キングダムでは怪奇現象が起こっていた。ある時、降霊術が趣味の入院患者ドルッセ夫人は、病院に少女の霊がいることに気付く。そして、病院で下働きをする息子と共に、霊の正体を探り始め、やがて、少女が病院の創設者クルーガーの娘であることを知る。
 一方、女医のユディットは若手医師クロースホイに言い寄られていた。しかし、彼女は他の男の子を妊娠していた。しかもその成長は異常に早く、心配した医師から中絶をすすめられる。その頃、ドルッセ夫人は少女の霊を心残りから解放し、魂を鎮めようとしていた ・・・。

 奇才ラース・フォン・トリアーがデンマークのテレビのために製作した不条理なカルト・ドラマ。フィルターをかけたような独特の映像そのものが、観る者に精神的な不安定をもたらします。この映像がお茶の間に流れた事自体信じがたいことですが、ホラーやオカルトの雰囲気はたっぷり。ついでにグロテスクな映像も。とにもかくにも十分な娯楽性を演出していると言えます。
 しかし物語は1〜4章まであり、9時間を超える長大さ。もっとも、それでも完結しているとは思えないストーリーが玉に瑕ではあります。いずれにせよ、取り組むにはちょっと根気が必要かもしれません。


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(アメリカ/1946〜)

【主な監督作品】
「マルホランド・ドライブ」(2001)
「ストレイト・ストーリー 」(1999)
「ロスト・ハイウェイ」(1997)
「ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間」(1992)
「ワイルド・アット・ハート」(1990)
「ツイン・ピークス」(TV)
「ブルーベルベット」(1986)
「エレファント・マン」(1980)
「イレイザーヘッド」(1976)
(イギリス/1968〜)

【主な出演作品】
「キング・コング」(2005)
「ザ・リング2」(2005)
「ステイ」(2005)
「ハッカビーズ」(2004)
「21グラム」(2003)
「ザ・リング」(2002)
「マルホランド・ドライブ」(2001)
「ダウン」(2001)
「アリス」(TV)
「娼婦ベロニカ」(1998)
「タンク・ガール」(1995)
(アメリカ/1915〜1985)

【主な監督作品】
「フェイク」(1975)
「フォルスタッフ 」(1966)
「審判」(1963)
「黒い罠」(1958)
「オセロ」(1952)
「マクベス」(1948)
「上海から来た女」(1947)
「偉大なるアンバーソン家の人」(1942)
「市民ケーン」(1941)
(カナダ/1943〜)

【主な監督作品】
「ヒストリー・オブ・バイオレンス」(2005)
「スパイダー」(2002)
「イグジステンズ」(1999)
「クラッシュ」(1996)
「裸のランチ」(1991)
「ザ・フライ」(1986)
「デッドゾーン」(1983)
「スキャナーズ」(1981)
(フランス/1928〜)

【主な監督作品】
「Mの物語」(2003)
「恋ごころ」(2001)
「パリでかくれんぼ」(1995)
「美しき諍い女」(1991)
「彼女たちの舞台」(1988)
「嵐が丘」(1986)
「北の橋」(1981)
「セリーヌとジュリーは舟でゆく」(1974)
「修道女」(1966)
(デンマーク/1956〜)

【主な監督作品】
「マンダレイ」(2005)
「ドッグヴィル」(2003)
「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(2000)
「イディオッツ」(1998)
「奇跡の海」(1996)
「キングダム」(1994)
「ヨーロッパ」(1991)
「エピデミック 伝染病」(1987)
「エレメント・オブ・クライム」(1984)

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