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「日本の怪談」

・・・ 日本の夏の風物詩 ・・・

 日本古来の文化とも呼べる「怪談」。その本質は怨念と未練であることが多く、情念に彩られたどろっとした物語は日本独特のホラーと呼べます。一方、ホラーというジャンルの中で特化してきたのが現代の怪談、いわゆるジャパニーズ・ホラー。そして旧来の怪談は明らかにジャパニーズ・ホラーの土台となっているように思います。今回はその中でも代表的な怪談映画を振り返ってみます。
◆怪談映画の名匠・中川信夫
「東海道四谷怪談」(1959)
[監督] 中川信夫
[原作] 鶴屋南北
[出演] 天知茂、北沢典子、若杉嘉津子
[物語] ある夜、浪人・民谷伊右衛門はお岩との結婚を反対され、その父・四谷左門を斬殺。下僕の直助と謀って御金蔵破りに罪を着せる。
それから二年。伊右衛門はお岩と子をもうけるも笠張りに身をやつし貧乏暮らし。そんなある日、道でからまれている娘・お梅を助けると、その父・伊藤喜兵衛に気に入られ縁談話に発展。金と仕官に目がくらんだ伊右衛門は邪魔になったお岩に南蛮渡来の毒を盛る。その足でお梅との祝言に出かける伊右衛門。しかしお岩は亡霊となって伊右衛門の前に現れる ・・・。

 あまりにも有名な鶴屋南北の長大な戯曲の映画化。この題材は多くの名匠が個性的なアレンジで映画化を試みています。中でも本作は怪談映画の傑作であり、中川信夫監督の代表作とも言われます。シンプルな展開にまとめ上げつつも、端的な表現で人間の心の奥底に潜む美醜を描き出しているのは見事の一言。さらに渡辺宙明の伝統音楽的なBGMが恐怖感を大いに盛り上げています。
 無論有名なシーンも続出。お岩の顔がただれるシーン、鏡台の前で髪を梳くシーン、戸板に死体を打ちつけるシーン。そして "うらめしや " と震えた声が充満。お岩の怨霊に目をくらまされ、刀を振り回して殺戮を繰り返す伊右衛門。古典的なつくりにもかかわらず、後半の畳み掛けようはさすがと言えます。恐怖シーンは、映像技術が発達した現在からはやや見劣りしますが、怪談特有の恐怖感をこれほど醸成している映画は稀少です。ホラーファンならぜひとも見ておきたい一本でしょう。

「怪談かさねが渕」(1957)
[監督] 中川信夫
[原案] 三遊亭円朝(初代)
[出演] 和田孝、北沢典子、若杉嘉津子
[物語] 座頭の宗悦は、旗本・深見新左衛門に借金の催促に行くが殺されてかさねが渕に沈められてしまう。しかし宗悦は怨霊となって新左衛門をかさねが淵に引きずり込む。
それから20年。新左衛門の息子で番頭をしていた新吉は、店の一人娘・お久と恋仲になる。が、新吉は三味線の師匠・豊志賀と情を通じてしまい、店を追い出されてしまう。やがて、一緒に暮らしていた豊志賀の顔が醜く崩れ始める ・・・。

 中川信夫監督の最初の怪談監督作。江戸時代末期から明治時代に活躍した名落語家・初代三遊亭円朝の作品を見事に映像化。親の因果が子に報いるという、親子二代にわたるおどろおどろしい物語を見事に再現しています。「東海道四谷怪談」とともに日本の古典的な怪談映画の代表作と言えます。

◆ラフカディオ・ハーンの怪談
「怪談」(1965)
[監督] 小林正樹
[原作] 小泉八雲
[出演] 中村嘉葎雄、岸恵子、丹波哲郎
[物語] 木こりの茂作とその奉公人・巳の吉は、ある日の帰り、大吹雪に遭う。やっとのことで小屋へたどり着くが、しばらくすると白装束の若い女が現れる。女は茂作に覆いかぶさると白い息を吐きつけ、血の気を吸い取って殺してしまう。女は巳の吉にも迫るが、見逃すかわりに今夜見たことを話したら殺す、と言って去っていく ・・・ (雪女)。
 ある夜、盲目の琵琶法師・芳一の許に、武士が琵琶を聞かせてほしいと迎えに来る。以来、毎夜出向く芳一だが徐々に死人のようになっていく。ある時、芳一をつけていった小間使いは、墓場で一人琵琶を弾く芳一を見つける。相手を貴人と信じていた芳一だったが、実は源氏に滅ぼされた平氏一族の怨霊だった ・・・ (耳無し芳一の話)。

 日本に帰化したアイルランド人、ラフカディオ・ハーン(= 小泉八雲)が日本中の不思議な物語を集めて著した「怪談」。その中から、優しい妻を捨て仕官した武士の悲劇を渇いたタッチで描いた「黒髪」、雪女の恐怖と愛を情感豊に描いた「雪女」、滅亡した平家の怨霊にとり憑かれた琵琶法師を描いた「耳無し芳一の話」、茶碗の水の中に浮かび上がる武士の恐怖を描いた「茶碗の中」、の四本を映画化したオムニバス。
 映画は三時間に及ぶ長大な作品。ややゆったりした流れで飽きが出るきらいはありますが、じっくりとした人間描写、古風なセットの再現、シンメトリーを巧みに織り交ぜた美しい構図など、当時の日本映画ならではの長所が顕著に出ている映画でもあります。怖さを強調したホラーというよりは、怪談文学に触れる格好の作品です。

◆世界の溝口健二が描く怪談
「雨月物語」(1953)
[監督] 溝口健二
[原作] 上田秋成
[出演] 森雅之、京マチ子、田中絹代
[物語] 戦国時代。陶工の源十郎は商いに目覚め必死で陶器を焼き続けていた。しかしやさしい妻・宮木は、幼い子と親子三人で無事に過ごせることだけが望みだった。が、やがて戦が始まり、村の男たちは次々と人夫としてさらっていく。難を逃れた源十郎だが、地元で商いはできず、妻子を置いて遠く大溝の地まで陶器を売りに行くことにする。
 ある時、源十郎のもとに気品漂う女性・若狭が客としてやってくる。そして品物を届けに屋敷まで出向くが思わぬもてなしを受け、さらに美しい娘・若狭にたちまち誘惑されてしまう。やがて家族を忘れ、ついに若狭と契りを結んでしまう。が、若狭には驚くべき秘密があった ・・・。

 原作は江戸時代の怪異物語集、上田秋成の「雨月物語」。その中から「蛇性の婬」と「浅茅が宿」をひとつのストーリーにまとめ上げたもの。監督は伝説の映画監督、溝口健二。実は怪談色はほとんどなく、非常に文芸色の高い作品に仕上がっています。
 物語は主人公源十郎とその弟藤兵衛夫婦の物語を交錯させながら進行。片や妻子を忘れて美しい若狭に傾き、片や立身出世を夢見て妻を捨てて単身士官してしまいます。両者とその家族がそれぞれにたどる悲劇的な運命を通じて、人間の心の弱さ、エゴの無意味さ、家族の絆の本質を見事に描ききっています。表現の古さを別にすれば、日本映画史上屈指の名作と呼べるほどの質の高さ。怪談としてよりは、日本映画の名作をじっくりと堪能したいところです。

◆現代によみがえる怪談
 今ではジャパニーズ・ホラーが新たなジャンルを確立し、より高度な恐怖を伝えています。古来の怪談が映像化される機会は減りましたが、大胆なアレンジが加えられてよみがえるケースはあります。
 「忠臣蔵外伝 四谷怪談」(1994/監督:深作欣二/出演:高岡早紀、佐藤浩市)もそのひとつで、「忠臣蔵」と「東海道四谷怪談」を一つにした異色のつくり。ここでは主人公・民谷伊右衛門は赤穂藩士という設定。が、藩主・浅野内匠頭(たくみのかみ)が起こした刃傷沙汰で藩は取り潰し。浪人となった伊右衛門は湯女・お岩と出会い、一緒に暮らすようになるのです。
 その後裕福なお梅と出会ってお岩を捨てるのは旧来の展開。が、そこに赤穂浪士の吉良邸討ち入りという時代劇最大のクライマックスが描かれることになります。討ち入りをするはずの伊右衛門は成り行き上から大石内蔵助(くらのすけ)の暗殺を試みることになり、本来の物語に新たな悲劇を追加。ドラマティックな展開を実現しています。いかにも派手好み、過激好みの深作欣二監督らしいつくり。しかし登場人物の情感もよく出ていて、監督の代表作の一つに挙げられます。

 「嗤う伊右衛門」(2003/監督:蜷川幸雄/出演:唐沢寿明、小雪)も四谷怪談を元にした作品。推理小説・怪奇小説で有名な京極夏彦の原作をこれも名演出家の蜷川幸雄が映画化。ここでは、お岩の顔のくずれは子供の頃の病気が原因という設定になっています。しかも健気さの上に気丈さを重ね、お岩の人物像を伊右衛門同様にクローズアップさせています。その愛に裏打ちされた姿は見る者の感動をもたらしてゆきます。
 そして伊右衛門も浪人ではなく御先手組同心。その上司、筆頭与力・伊東喜兵衛の姦計で、喜兵衛の妾の梅を娶ることになってしまいます。夫のために喜兵衛から別れるよう言いくるめられるお岩。そんなこととは知らず、お岩に逃げられたと傷心する伊右衛門。そんな哀れなすれ違いが、終盤には凄惨な悲劇へと発展していくわけです。
 本作では、従来の怪談話を、ロマンティシズムを帯びた純愛物語にまで昇華。分りにくいシーンもあり、やや作り手本位となっているのは残念ですが、愛と感動を伝える物語には大いに心を動かされます。お岩と伊右衛門の、実に繊細で危うい感情描写にはぜひとも注目したいところです。

 「OTSUYU〜怪談 牡丹燈籠〜」(1998/監督:津島勝/出演:夏生ゆうな、大鶴義丹)の元ネタは「四谷怪談」と並ぶ怪談の名作。落語家三遊亭円朝がその原型をつくりました。本来の「牡丹燈籠」は1968年に巨匠・山本薩夫監督が映画しており、名作として知られていますが、残念ながらDVD化はされていないようです。
 あらましは、ある時、武士・新三郎が美しい娘・露と出会い恋に落ちるが実は露は亡霊だったというもの。露が示す愛情が偽りないものであることから、そして露を亡霊と知りつつ惹かれてしまう新三郎の姿から、この物語の悲劇性が非常に高く、大きな感動をすら呼ぶことになります。
 「OTSUYU」では、この物語を戦国時代から江戸時代、そして現代、と三つの時代にわたる物語に再編しています。それぞれの時代に新三郎と露が登場。賛否の残る構成となりましたが、本来の悲哀に満ちた雰囲気はよく出ています。

◆“とりあえず” 見る怪談なら ・・・
「怪猫 お玉が池」(1960)
[監督] 石川義寛
[原作] 橘外男
[出演] 伊達正三郎 、松浦浪路、北沢典子
[物語] 南条八千丸と小笹は想いを通じ合った仲だが互いの家は敵同士。ある時、小笹の兄玄斎は、代官とその弟五郎太と謀り南条家を皆殺しにしてしまう。が、ほどなくまわりで奇怪な出来事が起こり始める。その影には、南条家で可愛がられていた黒猫・玉がいた ・・・。

 最後に一本、手っ取り早く怪談の雰囲気を味わいたいなら、ということで「怪猫 お玉が池」。四谷怪談やかさねが渕、化け猫騒動など、怪談の名作からエッセンスを借りまくってつくられています。オリジナリティはともかく、さすがに円熟したつくりで怪談の雰囲気を見事なまでに創造。特に後半は怪談おなじみの名シーンをこれでもかと繰り出してきます。おばけ屋敷ムービーとも呼べる怪談映画の入門版です。


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(日本/1905〜1984)

【主な監督作品】
「怪異談 生きてゐる小平次」(1982)
「日本怪談劇場」(TV)
「プレイガール」(TV)
「怪談蛇女」(1968)
「地獄」(1960)
「女死刑囚の脱獄」(1960)
「女吸血鬼」(1959)
「東海道四谷怪談」(1969)
「亡霊怪猫屋敷」(1958)
「憲兵と幽霊」(1958)
「毒婦高橋お伝」(1958)
「怪談累が渕」(1957)
「怪異宇都宮釣天井」(1956)
「恋すがた狐御殿」(1956)
(日本/1931〜1985)

【主な出演作品】
「明智小五郎シリーズ」(TV)
(江戸川乱歩・美女シリーズ)

「白昼の死角」(1979)
「非情のライセンス」(TV)
「大岡越前(第一部)」(TV)
「893(やくざ)愚連隊」(1966)
「座頭市の歌が聞える」(1966)
「座頭市物語」(1962)
「火線地帯」(1961)
「地獄」(1960)
「黒線地帯」(1960)
「黄線地帯」(1960)
「女体渦巻島」(1960)
「東海道四谷怪談」(1959)
「憲兵と幽霊」(1958)
(日本/1916〜1996)

【主な監督作品】
「食卓のない家」(1985)
「東京裁判」(1983)
「燃える秋」(1978)
「化石 」(1975)
「いのちぼうにふろう」(1971)
「日本の青春」(1968)
「上意討ち 拝領妻始末」(1967)
「怪談」(1965)
「切腹」(1962)
「人間の條件」
(完結篇/1961)
(第三・第四部/1959)
(第一・第二部/1959)

「黒い河」(1956)
(日本/1898〜1956)

【主な監督作品】
「赤線地帯」(1956)
「楊貴妃」(1955)
「新・平家物語」(1955)
「山椒太夫」(1954)
「近松物語」(1954)
「祇園囃子」(1953)
「雨月物語」(1953)
「西鶴一代女」(1952)
「武蔵野夫人」(1951)
「お遊さま」(1951)
「雪夫人絵図」(1950)
「夜の女たち」(1948)
「歌麿をめぐる五人の女」(1946)
「元禄忠臣蔵」
(前後篇/1941-1942)
「残菊物語」(1939)
「虞美人草」(1935)
(日本/1930〜2003)

【主な監督作品】
「バトル・ロワイアル」(2000)
「忠臣蔵外伝 四谷怪談」(1994)
「いつかギラギラする日」(1992)
「華の乱」(1988)
「火宅の人」(1986)
「上海バンスキング」(1984)
「里見八犬伝」(1983)
「蒲田行進曲」(1982)
「青春の門」(1981)
「復活の日」(1980)
「柳生一族の陰謀」(1978)
「ドーベルマン刑事 」(1977)
「仁義なき戦い」(1973)
「トラ・トラ・トラ!」(1970)
(日本/1935〜)

【主な監督作品】
「青の炎」(2003)
「嗤う伊右衛門」(2003)
(日本/19??〜)

【主な監督作品】
「龍神三兄弟」(1999/OV)
「OTSUYU 怪談牡丹燈籠」(1997)
「くノ一忍法帖 劇場版 忍者月影抄」(1996)
「くノ一忍法帖 劇場版 自来也秘抄」(1995)
「 くノ一忍法帖」(1991/OV)
(日本/????〜????)

【主な監督作品】
「荒野の素浪人」(TV)
「怪猫呪いの沼」(1968)
「妖艶毒婦伝 般若のお百」(1968)
「怪猫お玉が池」(1960)

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