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「透明な映画」・・・ 心洗われる日本映画を集めてみました ・・・
ここでは透明感あふれる少女映画・女性映画を振り返ります。その多くは静かな展開ですが、繊細な心情描写が見る者の心を見事に捉えます。そして見終わった後の心地好い爽快感。娯楽作品とはまた違った種類の感動を味わうことができます。その代表格といえば岩井俊二監督。そしてもうひとり、長澤雅彦監督作品を採り上げています。いずれもがリリカルな世界を美しく描いている秀作。癒されたい、感動したい、そんな時にはうってつけの映画ではないでしょうか。
●「花とアリス」(2003)
[監督。脚本] 岩井俊二[出演] 鈴木杏, 蒼井優, 郭智博 [物語] ハナ(鈴木杏)とアリス(蒼井優)は同じバレエ教室に通う親友同士。高校に進学したハナは、片想いの彼・雅志(郭智博)を追って落研へ。ある日、雅志が頭をぶつけて気絶したのをいいことに、記憶喪失と信じ込ませ、自分は恋人だとうそをつく。雅志はそれを真に受け、不信を覚えながらも思い込んでゆく。 一方、アリスは三流芸能プロダクションからスカウトされ、様々なオーディションを受けていた。が、自分をうまく表現できずすべて不合格。そんなある時、雅志を家に呼んだハナは、以前隠し撮った写真を見られて窮地に陥る。とっさに雅志の前の彼女がストーカーとなって送りつけてきたのだと再びうそをつきく。そしてアリスはハナに頼まれて雅志の元カノを演じることに。 ところが雅志はアリスを本当に好きになってしまう。ハナもアリスも、そんな雅志の想いに徐々に気付いていく ・・・。 小さな恋を通して、二人の少女の友情と成長を描いた青春コメディ。が、コメディと言ってしまうには、あまりの瑞々しさ、繊細さ、透明感。つまりは少女映画を極めた一本です。ハナとアリス、そして雅志の奇妙な三角関係がおかしくもほろ苦く、さらには甘酸っぱいようなシチュエーション。この三角形を通して、それぞれの想いと成長が丁寧に綴られてゆきます。 物語の主人公ハナは、片想いの先輩・雅志に記憶喪失と思い込ませ自分を恋人と偽ります。一方の雅志は“生理的”に受け付けないはずのハナがなぜ恋人なのか?いぶかりつつも信じてしまいます。が、あることがきっかけで雅志はハナの親友アリスを好きになってしまうのです。 このアリスは芸能界志望。しかしオーディションはいつも失敗。やがて雅志が告白してきて戸惑うアリス。そうと気付いたハナは、しかしアリスを犠牲にしてまでも己の恋の成就に邁進するというわけです。 リリカルさとコミカルさが見事なバランスで、さらにはおとぎ話のような雰囲気を醸成しています。終盤では雅志を好きになりつつ身を引くアリス。そんなアリスの自分を想う気持ちを悟ったハナ。二人の美しい想い出が振り返られ、物語の感動はピークを迎えるのです。最後はやわらかであたたかな感動に包まれる作品。 続けて二度、三度、と観たくなる映画です。 ●「Love Letter」(1995)
[監督・脚本] 岩井俊二[出演] 中山美穂, 豊川悦司, 柏原崇, 酒井美紀 [物語] 神戸。渡辺博子(中山美穂)は山岳事故で亡くなった恋人・藤井樹の三回忌に出席する。その折、樹の中学時代の住所を知ることに。そこは北海道・小樽。しかし今は国道になって存在しないという。博子はふと思い立ち、届くはずのないその住所に手紙を書く。 ほどなく、小樽の藤井樹(中山美穂=二役)の家に手紙が届く。実は同姓同名の別人。樹は訝しがりながらも茶目っ気で返事を書くことに。一方、返事がきて驚く博子。その後何度も手紙をやりとりしているうち、博子は、二人の樹が同姓同名の同級生だったことを知る。そして中学時代の二人の様子を教えられるにつれ、博子は、二人は好き合っていたのではと疑いを持ち始める ・・・。 岩井俊二監督の長編映画デビュー作。物語は、主人公・渡辺博子の今の姿を克明に追いつつ、一方の文通相手藤井の姿も映し出されます。さらに過去の二人の樹(柏原崇, 酒井美紀)の物語も回想という形で並行して語られていきます。それぞれの美しい物語を通して、終始透明感のある背景と雰囲気、そしてリリカルな心理描写で見事に人間の心の再生を描ききっています。 主人公の博子は、三年前の恋人の死からいまだ立ち直れない女性。恋人の中学時代の家を知り、天国の恋人にでも出すつもりで手紙を出してしまいます。が、今はないはずの家から変事が。実は同姓同名の元同級生・樹がいたのです。そして博子は、ただひたすら恋人のことを知りたいと思い、手紙を出し続けることになります。 博子の脆さはあまりにも切なく、終始物語に悲劇的な雰囲気を醸成させています。一方、元同級生の死を知らないまま、無邪気に思い出を綴っていく樹。その家族の物語、さらに博子を密かに慕う秋葉(豊川悦司)の存在も物語をドラマティックに仕立てています。 とにかくも本作の見事さは、人の心の機微が実に細やかに描かれているところでしょうか。複数のシチュエーションを同時に描きながら、いずれの人物にもサッ、と感情移入させてしまう手腕はさすがと言わざるを得ません。ヒューマンドラマの名作と呼べるでしょう。 ●「四月物語」(1998)
[監督・脚本] 岩井俊二[出演] 松たか子、田辺誠一 [物語] 楡野卯月(松たか子)は大学に通うため北海道から上京。東京郊外のアパートに住みはじめる。隣の部屋にはどこかはかなげな照子、大学では物怖じせず何かと自分を誘ってくるさえ子。最初は物怖じしながらも、いつしか照子やさえ子とも心が通い合うようになっていく。 やがて卯月は自転車を購入し、武蔵野堂という書店に毎日のように通い始める。実は高校時代に片想いしていた先輩・山崎(田辺誠一)がアルバイトをしている場所。なかなか会えずにいた卯月だったが、ある時、ついに山崎を見つけ ・・・。 一人の少女・卯月(松たか子)の胸に秘めた恋を描いた、甘酸っぱくも繊細なラブ・ストーリー。感性重視のシンプルなストーリーラインですが、ただのラブ・ストーリというわけではなく、主人公・卯月の心の成長が実に丁寧に描き出されています。加えて美しい背景描写がまたさりげない心地良さ。おもしろさ、という点では一歩後退しますが、リリカルなドラマとしては見事に一人の少女の恋と成長を描き切ったと言えます。 主人公はちょっと引込思案の卯月。大学に通うため上京。さまざまな人に出会い、戸惑いつつも異郷での生活に慣れていきます。このとき、卯月が周りの人間たちを受け入れ、一方で心を開いていくさまが細やかな表現で綴られています。さらに憧れの先輩との再会。それを「愛の奇跡」などと言っているところは何とも少女っぽい心の美しさ。しかし、そんな卯月の心の解放を物語りは描いているとも見れます。 作中では、雪、桜の花びら、雨、と自然の営みを巧みに背景にして美しい物語を一層際立たせています。ナチュラルな人物描写にも好感が持てます。つまりはひたすら美しい映画で、癒し効果十分の映画と言えるでしょう。しかし本作、一番おいしいところを持っていったのは終盤ちょっとだけ登場する加藤和彦だったり?しています。 ●「ココニイルコト」(2001)
[監督] 長澤雅彦[脚本] 長澤雅彦、三澤慶子 [原案] 最相(さいしょう)葉月 [出演] 真中瞳, 堺雅人 [物語] 広告代理店のクリエイターだった志乃(真中瞳)は、東京本社から大阪支社へ転勤させられた上、営業部に配属させられる。不倫相手の上司から手切れ金を渡された上での転勤だった。慣れない仕事にとまどう志乃だったが、すっかりやる気を失い、職場にも仕事にも馴染もうとはしなかった。手切れ金を使い切ったら会社を辞める決意をしていたのだ。 しかしそんな志乃のわがままを、もう一人の新入社員、中途採用の前野悦郎(堺雅人)は笑って受け止める。いい加減なようでさりげなく自分を気遣う悦郎を、志乃は徐々に受け入れはじめる。さらに、クリエイト部の仕事を任されたことを機に、周りにも徐々に心を開くようになる。が、そんなある日、突然悦郎が入院する。悦郎は心臓に持病を抱えていたのだ ・・・。 ちょっとコミカルな女性映画。不倫、心臓病といった重めのモチーフを扱ってはいますが、意外にも深刻さは希薄です。むしろからっとした明るさが何とも優しく目に映ります。決して繊細すぎず、かといっておちゃらけ過ぎることもなく、ナチュラルな感動がこの映画には息衝いています。 主人公は不倫の上司に左遷させられた志乃。最早やる気はなく、会社を辞めようと思っていた時、同僚の悦郎と出会います。周りに溶け込もうとせず白い目で見られる志乃に、悦郎は「まあ、ええんとちゃいまっか」と笑って受け止めます。そして悦郎との交流を機に、志乃は徐々に心を開き、生気を取り戻してゆくのです。 物語は、一人の女性の再生を通して、生きがいや人の優しさをさりげなく伝えています。わがままな志乃に憤りを感じながらも温かな目を注ぐ上司や同僚。志乃ばかりでなく、そんな周辺の人物の様子が端的に描かれています。人間の心が本来持つ美しさ、優しさが実に心地良く見る者の目に映ります。 また、結局、皆 "いいひと" で終わるエンディングも好感度抜群。無理にお涙頂戴に持っていかないのもいいところ。決して大きなインパクトはありませんが、ほっとするような心地良さを実感できる映画ではないでしょうか。 ●「卒業」(2003)
[監督] 長澤雅彦[脚本] 三澤慶子、長澤雅彦、長谷川康夫 [出演] 内山理名, 堤真一, 夏川結衣 [物語] 短大の講師・真山悟(堤真一)は大人しすぎて思ったことをうまく言葉にできず、恋人の泉(夏川結衣)にも呆れられているほど。大学からクビを言い渡されても、それを打ち明けることができない。ある時、突然の雨で立ち尽くす真山に赤い傘を差し出す女性(内山理名)が現れる。彼女は真山の生徒で杉田麻美だと名乗るが、真山には思い出せなかった。 以来、麻美は何かにつけて真山の前に現れつきまとうようになる。真山は、自分に好意を持っていると察しつつ、彼女に振り回されるままデートを重ねてしまう。一方泉は、ふとしたことから真山の通帳を見てショックを受ける。そこには真山の別れた妻の苗字が記されていたのだ。これを機に真山と泉は急速に心が離れていく。そんな中真山は、偶然、杉田麻美が偽名であることに気づく ・・・。 静かな静かなラブ・ストーリー。非常に繊細な物語で、繊細すぎると言ってもいいくらい。見る側が一歩も二歩もスクリーンの中に踏み込む必要があります。しかしそこで得られる感動は大変に深いもの。終始雨を巧みに使ったしっとりとした背景。そこに浮き上がる人物たちの切なさ、悔しさ、そして優しさが見事に伝わってきます。 主人公は41才の大学講師・真山。極度の引込思案で後悔ばかりの人生。そんな悟の前に謎の女性・麻美が現れ、振り回される日々がはじまります。一方では大学をクビになり、恋人・泉ともうまくいかず自分を失いかける真山。が、麻美はそんな真山を“密かに”励まします。麻美は、実は真山の娘だったのです。 物語は登場人物それぞれの自立を描きます。その道のりを彩るのは美しいセリフの数々。作中、待ち合わせにと刻をした真山に泉が言います。あなたはちょっと待ち合わせが下手なだけ、と。お互い欠点すら理解しているよう。しかしある時にはこう訴えます。言葉にしないと分からない、と。二人には一番大切なことが欠けていたのです。 が、さらにそんな泉に麻美は穏やかに言います。言葉にしたら壊れてしまうものがある、と。それは、真山の本質を言い表した言葉でもありました。少ないセリフではありますが、そのすべてが人物の真情を代弁し、ことごとく物語に絡んでいるのが分ります。実に無駄のない美しい流れを本作では実感できます。二度、三度と見て、じっくりと深い感動に浸りたい映画です。 |
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【主な監督作品】 「花とアリス」(2003) 「リリイ・シュシュのすべて」(2001) 「四月物語」(1998) 「スワロウテイル」(1996) 「PicNic」(1996) 「Love Letter」(1995) 「Undo」(1994) 「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」(1993) (日本/1987〜)
【主な出演作品】 「空中庭園」(2005) 「花とアリス」(2003) 「青の炎」(2003) 「ナイン・ソウルズ」(2003) 「リターナー」(2002) 「ジュブナイル」(2000) 「ヒマラヤ杉に降る雪」(1999) 「心霊2」(1997) (日本/1985〜)
【主な出演作品】 「蟲師」(2006) 「虹の女神」(2006) 「ハチミツとクローバー」(2006) 「フラガール」(2006) 「ニライカナイからの手紙」(2005) 「亀は意外と速く泳ぐ」(2005) 「変身」(2005) 「花とアリス」(2003) 「1980」(2003) 「害虫」(2002) 「リリイ・シュシュのすべて」(2001) (日本/1970〜)
【主な出演作品】 「東京日和」(1997) 「Love Letter」(1995) 「水の旅人」(1993) 「波の数だけ抱きしめて」(1991) 「どっちにするの。」(1989) (日本/1977〜)
【主な出演作品】 「THE 有頂天ホテル」(2005) 「隠し剣 鬼の爪」(2004) 「ナイン・ソウルズ」(2003) 「マネーざんす」(2002) 「四月物語」(1998) 「東京日和」(1997) (日本/1965〜)
【主な監督作品】 「夜のピクニック」(2006) 「青空のゆくえ」(2005) 「13階段」(2003) 「Short Cakes」(2003) 「ソウル」(2002) 「卒業」(2002) 「ココニイルコト」(2001) |
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