映画鑑賞記

アラバマ物語
preview To Kill A Mockingbird(1962/アメリカ/129分)
[監督] ロバート・マリガン
[原作] ハーバー・リー
[脚色] ホートン・フート
[音楽] エルマー・バーンスタイン

[出演]
グレゴリー・ペック、メアリー・バーダム、フィリップ・アルフォード、ジョン・メグナ、フランク・オバートン、ローズマリー・マーフィー、ルース・ホワイト、ブロック・ピータース、ポール・フィクス、ロバート・デュバル

[評価] ★★★★☆
人種差別が色濃く残る南部の小さな田舎町。無実の罪に陥れられそうになる黒人青年を救おうとする弁護士と、謎の隣人ブーと不思議なかかわりを持つことになる彼の子供たちの物語。童話的な雰囲気の中、静かな感動が心に染み渡る名編。
 戦前。アラバマにある小さな町。妻に先立たれた弁護士のアティカスは、娘のスカウトと息子のジェムと住んでいます。子供たちの最大の関心は、隣に住むブー。あったことも見たこともない謎の男です。見れないかとしばしば潜んでのぞきに出かけては、怪物の想像を膨らませるのが楽しみ。が、実はブーは知恵遅れで激しい人見知りのする青年なのでした。
 ある時、農家のボブが、自分の娘が黒人青年トムに強姦されたと騒ぎます。しかし、トムを誘い込んだのは娘の方で、娘に乱暴したのは父親でした。公然と人種差別が行われていた時代。差別のせいでトムが無実の罪に陥れられると心配した判事は、人種差別のないアティカスに弁護をするよう密かに頼みます。
 嫌がらせを受けながらも弁護を貫こうとするアティカス。理路整然とトムの明らかな無実を訴えます。しかし陪審員は白人ばかりで、偏見を持つ彼らは有罪の判決を下してしまいます。一方、子供たちは念願かなって一度ブーに出会うことになりますが、とたんに恐くなって逃げ帰ってきてしまいます。そのときから、会わないまでも、ブーと子供たちは、不思議と心を通わせるようになっていきます。
 やがてアティカスがトムの再審の相談をするために家族のもとを訪れたた時、トムが護送中に脱走したという知らせが入ります。人種差別の少ないところで裁判を行えば無実になると確信していたアティカスは愕然とします。その頃、ボブはアティカスの子供たちを偶然見かけて、裁判の腹いせをしようと子供たちを襲おうとしますが、そこにはブーがいて・・・。

 原作のハーバー・リー「ものまね鳥を殺すには」は、当時のベストセラーでありピューリッツァー賞の対象作でもあったようです。もりじょうも一時アメリカ文学に凝ったことがありますが、この原作は読んだことがありません。しかし、映画を見れば分かるとおり、大変にテーマ色の強い作品です。人種差別や偏見をモチーフとして強烈に表現しているのです。一方で不思議なのは、これらのメッセージそのものがこの作品の本質ではないのだろう、ということです。と、思うのですが、他に見た方はどうお感じなのか。
 物語は、アティカスが関わる無実の黒人青年の裁判と、アティカスの子供たちとブーとの不思議な親交との二つが平行した形で進行していきます。事実がそこにありながらも"理性的に"偏見から目をそむける大人たち。一方、事実が何かを知らないのに"無垢な"感性でそこに真に大切なものを見つけていくブーと子供たち。前者は悲劇を生み、後者は救いを生む。この対比は見事だと思います。最後にこのふたつは一つに収束するのですが、そこにこそこの物語の本質が表現されていると考えます。
 ブーという青年。物語中ほんのわずかしか登場してきません。しかし、二つの物語を収束させるのが、このブーであり、一つになった物語を締めくくるのが保安官の一言。「この優しい青年を裁判にかけるのは可哀想だ」 そして、ラスト、ブーとスカウトが映るところ。"無垢"な心を象徴するシーン。この、人の無垢な感情は、理性や法律や社会的な観念などの何よりも優先するのだという象徴が、このブーなのではないでしょうか。

 ところでこの映画、当時大変な評価を受けた作品でした。ただ、この年のライバルは「アラビアのロレンス」と「奇跡の人」。これにはちょっと運がありません。しかし、そんな中でもホートン・フートは脚色賞を受賞しています。本作品の見事な内容を見ればこれは誰もが納得でしょう。さらに大根といわれた(こりゃ失礼)グレゴリー・ペックはオスカーを受賞。しかし、こちらは役に恵まれた感もあります。主人公アティカスの意志の強さと正義感、そして理知的な冷静さとやさしさ。まさに適役を演じたという印象があります。それよりも子役のスカウトがすばらしい。決して美形には映していないのですが、抱きしめてやりたくなるほど愛しく感じてしまいます。
 もう一つの魅力。この映画。まるで童話のようなつくり方をしていますね。映像といい、音楽といい、大変ノスタルジックな雰囲気をかもし出しているのです。この物語の悲劇性を効果的に和らげ、なおかつ、見る者を優しい気持ちにさせています。救いのないモチーフは個人的にちょっと苦手ではありますが、名作であるという印象に変わりはありません。これから見る方も静かな感動に浸れることでしょう。
* 評価やコメントは、あくまでも、"もりじょう"の個人的な感性に基づくものです。
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