映画鑑賞記

女と女と井戸の中
The Well(1997/オーストラリア/102分)
[監督] サマンサ・ラング
[原作] エリザベス・ジョリー
[脚本] ローラ・ジョーンズ
[撮影] マンディ・ウォーカー
[音楽] スティーブン・レイ

[出演]
パメラ・ラーブ、ミランダ・オットー、ポール・チャブ、フランク・ウィルソン、スティーヴ・ジェイコブス、ジュヌヴィエーヴ・レモン、 サイモン・ライドン

[評価] ★★★☆☆
 辺地に淋しく暮らす中年女性へスター。ある時、住み込みの家政婦として娘キャシーを雇う。やがて二人は親密になり、生活費が底をつくとへスターは土地を売って金をつくる。そんな中キャシーが男を轢いてしまう。へスターは死体を庭の枯井戸に投げ込んでしまうのだが ・・・。ちょっと怖くてちょっと切なく、そしてちょっとはらはらする大人の人間ドラマ。すっきりとした展開とはいかないが読み応えのある心理劇。
ストーリー
 オーストラリアの辺地。広大な土地に父親二人で暮らしている独身の中年女性へスター。通いの家政婦モリーと時折泊まりに来る不動産業者のハリーが唯一の訪問者。ある時、へスターは住込みの家政婦を雇うことにし、施設に入っていた娘・キャシーを迎えに行くことになります。へスターは、明るく奔放なキャシーに戸惑いを感じながらも、その存在でみずからの寂しさを紛らわせるようになります。一方のキャシーも、仕事が嫌になり一旦は家出をするものの、へスターの自分に対する優しさを悟り、親しみを示すようになっていきます。
 やがて父親が他界。二人きりの生活が始まると、その親密さはさらに増し、浪費をするだけの日々を送るようになります。さらに生活費が底を尽きはじめると、ハリーの斡旋でボーダーン氏に土地を売ることに。二人は土地はずれの小屋に引っ越すことになります。そして大金を手にしたヘスターは、二人で行く欧米旅行の計画を立て始めます。
 しかしある夜、ボーダーン氏の引っ越しパーティからの帰り道。運転習い立てのキャシーは、ひとりの男を轢いてしまいます。同乗していたとヘスターは錯乱するキャシーを横目に男を庭の枯井戸の中に遺棄。しかしすぐに家の中の金がなくなっている事に気付き、男が泥棒であったと悟ります。金を取り戻そうと井戸を下りる準備をするヘスター。そんな中落ち着きを取り戻したキャシーが、 "井戸の男は生きている" と言いはじめて ・・・。

コメント
 原題 "The Well" とは、まさに井戸のこと。荒涼たる土地にぽつんと小屋が建っており、さらに、その閑散とした小さな庭の真ん中に蓋をした枯井戸。あまりにも鮮烈な構図なのですが、見方によってどうにでも感じられるこのシチュエーションが、本作の多態勢、つまりは人物の緊迫した微妙な心理を物語っているように見えます。
 ところが作中で井戸が出てくるのは中盤になってから。しかし井戸に至る長い長い導入部は壮大な罠にも見えてきます。雇い主と使用人であるはずのへスターとキャシーが徐々に親密になり、それが理性を超えたものに発展していく様を堅実な描写で描いていくのです。しかしキャシーが見知らぬ男を轢いてしまい、ここでようやく不気味な井戸が登場します。へスターが死体を井戸に捨てると、前半築き上げてきた物語が砂城であるかのごとく二人の関係は破壊されていきます。そして後半は、これでもかと言わんばかりに井戸を映し出します。が、それは二人が常に井戸に心を奪われているという現れでもあります。
 そして見る者は、井戸の存在は本作の象徴であることに気付き、その心に重くのしかかってきます。このプレッシャーの掛け方はオーソドックスとはいえ見事と言うほかありません。終盤、枯れ井戸に溜まる雨水。浮かび上がる死体。ついに井戸に封印をしてしまうヘスター(パメラ・ラーブ)。その行為は二人の別れのきっかけとなるわけですが、それがへスターの未来を奪い、その心を空虚に戻す結果を招いてしまうのです。さらに、深読みをすれば、それは奇しくも自分の命を守ったとも言えるのかもしれません。しかし、"愛する" キャシーを失った彼女の周りには "愛すべき" たくさんの小さな子供。へスターの新たな生きがいをわずかに暗示しつつ物語は終わりを迎えます。
 一方で、そのへスターの心に入り込んだキャシー(ミランダ・オットー)。しかし、多額の現金を目にすることで、みずからの心にも隙が生じてしまいます。はたしてキャシーはヘスターを手にかけていたろうか。そう思い当たると、物語のさらなる残酷さに戦慄をも感じてしまいます。結局、井戸は心の隙間を暗示する象徴的な存在であったわけです。そして見る者の心の隙間にさえ入ってくる不思議な力を本作は発揮していると思うのです。
 見応えのあるドラマではありますが、おもしろさと言う点ではいまひとつ。すっきりしない結末も暗い余韻を見る者にもたらします。心理ドラマの上にサスペンスやホラーを小匙一杯づつ加えた異色作というのが正直な印象。広大なシチュエーションと微妙な心理劇。さらには、時に中世を、時にヨーロッパを匂わせ、またある時には開拓時代のアメリカや神秘的な原自然を連想させ、といかにも国柄を問わない世界。オーストラリア映画の一面が端的に表れた作品と言えるかもしれません。

* 評価やコメントは、あくまでも、"もりじょう"の個人的な感性に基づくものです。

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