映画鑑賞記

オリエント急行殺人事件
Murder On The Orient Express(1974/イギリス/128分)
[監督] シドニー・ルメット
[原作] アガサ・クリスティー
[脚本] ポール・デーン
[撮影] ジェフリー・アンスワース
[音楽] リチャード・ロドニー・ベネット

[出演] アルバート・フィニー、ショーン・コネリー、リチャード・ウィドマーク、ローレン・バコール、アンソニー・パーキンス、ジャクリーン・ビセット、マイケル・ヨーク、イングリッド・バーグマン、バネッサ・レッドグレーブ、ウェンディ・ヒラー、ジョン・ギールグッド、ジャン・ピエール・カッセル、レイチェル・ロバーツ、コリン・ブレイクニー

[評価] ★★★★☆
 オリエント急行の中で一人のアメリカ人が殺される。折しも列車は雪で閉じ込められ、名探偵ポワロが捜査に動く。やがて乗員乗客全員が、数年前に起こったアームストロング令嬢誘拐殺人事件に関わっていることを突き止めるのだったが ・・・。名探偵エルキュール・ポワロの活躍を描いた、クリスティーの名作ミステリーの映画化。ドラマティックなストーリオー、豪華キャスト、別世界のようなセット、華麗な映像そのものも堪能できる。ミステリー映画としても金字塔。
ストーリー
 1930年代のイスタンブール。ヨーロッパを横断するオリエント急行の一等車を予約できずに不平をもらしていた名探偵ポワロ。知り合いの鉄道会社役員ビアンキのはからいで無理やり一室だけやりくりしてもらうことになります。その列車の中。ラチェットという成金のアメリカ人がポワロに接近。命を狙われているから助けてほしいと言ってきますが、用心棒は自分の仕事ではないとポワロは断ります。しかしその夜、ラチェットは、体中を刺されて殺されてしまいます。折しもユーゴスラビアを通過中、雪に見舞われて列車は立ち往生しているところでした。
 ビアンキの要請で事件の捜査を始めるポワロ。ラチェットの部屋にあった燃えかすから、「アームストロング」という名前が浮かび上がってきます。そこからポワロは、数年前に起きた「アームストロング事件」に関わる事件だと推察します。事件は、アームストロング家の小さな娘が誘拐され、身代金を払ったというのに殺されてしまったというもの。その後、ショックで婦人は病死、悲しみのあまりアームストロング氏も自殺をしてしまうという悲惨な結末。その後実行犯は捕まったものの、黒幕は未だ逮捕されていないのでした。
 犯人は一等寝台にいた車掌と12人の乗客に絞られるように思われるのですが、マフィア暗殺説も浮上し、謎は深まっていきます。ほどなくポワロは乗客乗員一人一人と面談を始めます。国も言葉も違うはずの乗客たち。しかし、彼らのちょっとした言葉尻や仕草から、全員がアームストロング家に関わりを持っていることを突き止めます。そしてラチェットの正体とともに浮かび上がる真実。やがてポワロは容疑者を一堂に集め、謎解きを始めるのでしたが ・・・。

コメント
 原作はミステリーの女王アガサ・クリスティのあまりにも有名な同名小説。その掟破りのトリックから、「アクロイド殺し」とともにミステリー界で論議をかもし出した作品でした。 そのため、ちょっとしたミステリーファンなら、原作を読んでいなくてもあらかじめ犯人を知っていたことでしょう。それでも十分に物語を堪能できるのが、本作の名作たる所以と言えるでしょうか。
 監督はシドニー・ルメット。社会派、硬派な作品が多い中、非現実的なシチュエーションを見事に再現した本作。氏の中では異色と呼べるかもしれませんが、ミステリー映画にもかかわらず繰返しの鑑賞にもまったく劣化なく楽しめるところはその底力の凄さと呼べます。
 物語は豪華なオリエント急行の一等車両の中で起こった殺人事件に名探偵ポワロが挑むというもの。謎解きだけではなく、ポワロが事件に関わり、そして解決してゆく過程がクローズアップされ、事件処理に至るまで、見る者の興味を尽きさせません。加えて当時話題となった豪華なキャスト。さらに映画ファンならずとも、豪華なセットは別世界に誘われているような錯覚を催します。
 上映時間二時間あまりの大半が、その豪華セットであるオリエント急行の中。いわば列車という密室のシチュエーション。密室という点では、同監督の会話だけでサスペンスをを成立させてしまっている「十二人の怒れる男」もそうでした。ここでも決して間延びさせることなく、狭い車内にもかかわらず、様々な工夫で単調な映像となることを防いでいます。乗客たちを尋問するシーンでも、一人一人アングルを変えたり、尋問場所を変えたり、と、この凝り様はさすがといえます。そして極めつけは、終盤、残酷であるはずの殺人の再現シーンが "厳かに" 行われるところではないでしょうか。これはこの映画を象徴していると思います。忘れられないシーンですね。社会派ルメットの片鱗、と言えるかもしれません。
 俳優陣についてはとてもとても語りつくせません。大スターが勢揃いです。皆、当時は、往年というほどではなかったと思いますが、今となっては、特にオールド・ファンにはたまらない顔ぶれといえるでしょう。しかも、彼らが持つイメージそのままの役なのは粋なはからいだったのかもしれません。007のショーン・コネリーがここでも英雄的な人物だったり、アンソニー・パーキンスも「サイコ」の病的なイメージに似た役をこなしていたり、と。なかでも、ここでもピュアな人物を演じているイングリッド・バーグマンは評価が高かったようです。
 そしてもう一人、ポワロ役のアルバート・フィニーには触れないわけにはいきません。イギリスの名優で何度もオスカー候補に挙がっているほどですが、本作品では、歴代中最もユニークなポワロを演じています。やりすぎ、とも思えるメイク、まるで"蝋人形"のような動き、たいそうなせりふまわし。まあ、ユニークすぎてとっつきにくさも一流。が、それがまさにポワロの人物像であり、狙いでもあります。ところでこのポワロ役、「ナイル殺人事件」(1978)、「地中海殺人事件」(1982)などでは、ピーター・ユスチノフに引き継がれることになるのですが、フィニーポワロがこれらの作品に出るのは、場違いに思えてちょっと想像できません。フィニーポワロは、いわば、「オリエント急行」限定の"プレミアム"ポワロなのです。
 この映画の持つ豪勢な雰囲気。これは良いですね。個人的にはたっぷりと現実逃避ができるのが嬉しい限り。それにラスト。不思議な爽快感。原作を読んだ方も読んでいない方も十分に堪能できる映画だと思います。
* 評価やコメントは、あくまでも、"もりじょう"の個人的な感性に基づくものです。
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