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バルカン超特急

The Lady Vanishes(1938年/イギリス/98分)

[監督]アルフレッド・ヒッチコック
[原作]エセル・リナ・ホワイト
[脚本]シドニー・ギリアット、フランク・ローンダー
[撮影]ジャック・コックス
[音楽]ルイス・レヴィ
[出演]マーガレット・ロックウッド、マイケル・レッドグレーブ、ポール・ルーカス、(デイム)メイ・ウィッティ、セシル・パーカー、リンデン・トラバース、メアリー・クレア

[内容]

 ある小国でアイリスは老婦人フロイと親しくなる。が、一緒に汽車に乗り込んだ後、フロイは行方不明に。不思議にも、フロイと接した誰もがその存在を否定。アイリス一人だったと証言する。乗り合わせた医師は幻覚と診断し、アイリスもそう信じるようになるのだが ・・・。ヒッチコックのイギリス時代の代表作。名物奇術「婦人消失」をモチーフにした娯楽サスペンス。ヒッチコック作品のおもしろさのエッセンスが満載。戦前屈指のサスペンス映画。
[評価]★★★★☆

cinema review

STORY

 バルカン半島の小国バンドリカ。雪崩で汽車が足止め。復旧は翌朝まで待たねばならず、多くの外国人客がホテルに殺到する。その夜、クリケット・ファンのイギリス人、カルディコットとチャータースがレストランに行くとすでに食事はなく、向かいの老婦人フロイにチーズをおすそ分けしてもらい何とか飢えをしのぐ。家庭教師のフロイはここに6年いて明日帰国するという。そのフロイが部屋に帰ると外から美しい歌声が。バンドリカは音楽の国でもあった。
 しかし階上の屋根裏部屋からも騒音が聞こえてきて台無しに。階上では音楽研究家のギルバートが民族舞踊を踊らせていた。これに怒ったのは隣に泊まる富豪の娘アイリス。金の力に物言わせ、階上のギルバートを追い出してしまう。が、その頃、外で歌っていた歌手が何者かに殺される事件が起きていた。
 翌朝、アイリスが汽車に乗り込む直前、頭に植木鉢が落ちてきて失神。フロイの介抱を受け、気がつくと部屋に座っていた。同室は他にイタリア人の男とアテナ男爵夫人。間もなくアイリスとフロイは食堂車へ。途中、フロイがある部屋によろけるが、そこにいた男女の態度はそっけない。実は不倫旅行中の弁護士エリックと人妻マーガレットだった。そして食堂車ではフロイ持参のハリマンハーブ茶をボーイに渡し、出してもらう。隣のテーブルにはカルディコットとチャータースがクリケットの話に夢中になっていた。
 その後部屋に帰りうとうとするアイリス。そして目が覚めるとフロイの姿はなかった。おかしなことに、同室のイタリア人も男爵夫人も、さらには食堂車のボーイまでもが、アイリス一人だったと証言。途中、ギルバートと出くわすとフロイ探しを手伝ってくれることになるが、やはり乗り合わせていた世界的な脳外科医ハーツは、頭を打ったための幻覚だと診たてる。
 さらにフロイがよろけて入った部屋の男女もフロイを見ていないと断言。食堂車にいたイギリス人は覚えていないと証言する。が、そんな中、今度はフロイが戻ったとの知らせが入ってくる。喜び勇んで部屋に戻るアイリス。が、そこにいた老婦人はフロイではなかった ・・・。

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COMMENT

 一人の老婦人が列車の中から消失。列車内の誰もが老婦人の存在を否定。その着想のおもしろさはいまだ健在。何度見てもストーリーに引き込まれてしまいます。ただし、展開事態はかなり強引。特に、失そうした老婦人の存在を "偶然" 否定する人物たち。そんな特徴もまた、初期ヒッチコック映画の個性と呼べるかもしれません。ヒッチコック作品では、おもしろさがリアリティに勝る過程を如実に体感することができます。
 冒頭は当時のヒッチコックお得意のミニチュアを使ったシーンから山あいの架空の小国バンドリカの風景を映し出します。物語の主人公は富豪の娘・アイリス(マーガレット・ロックウッド)。婚約中だが実はあまり乗り気でないというのがミソ。最初犬猿の仲となる青年ギルバート(マイケル・レッドグレーブ)とのラブストーリーが後に待ち受けています。序盤はとにかくあらゆるモチーフが伏線。本作の密度の濃さを象徴しています。
 やがて西欧へ向かう汽車で、アイリスが親しくなった老婦人フロイ(メイ・ウィッティ)が突如失そう。ギルバートとともに列車内を捜索します。が、フロイと接触したはずの皆が否定。実はそれぞれの事情からうそをつくのですが、乗り合わせていたハーツ医師(ポール・ルーカス)は頭を打ったための幻覚と診断。アイリスもそう思いこむようになります。が、その時、ギルバートはあるものを発見します。それはフロイが持参していたハリマン・ハーブ茶の包みだったのです。
 後半では、これがバンドリカの政治的な陰謀であることが判明。それにしても、なぜただの家庭教師フロイが狙われるのか? その背景には、第二次大戦前夜という当時の緊迫したヨーロッパ情勢をうかがい知ることができます。つまりは、バンドリカとファシスト国家(ドイツかイタリアを想定か)の協定をフロイが探り当てたとのからくりが終盤明らかにされるわけです。
 今回は不倫話はなし、と思いきや、不倫旅行中のエリックとマーガレットが登場。不倫好き?のヒッチコック。またもや不倫話を盛り込むこととなりました。これはハリウッド進出後も変わらず、ヒッチコック映画の隠れた名物と呼べるでしょう。一方、イギリス色が強いのも特徴。フロイは典型的なイギリスの空想好きの老婦人。熱狂的なクリケット・ファンの二人、カルディコットとチャータースは終始コミカルな面を醸成しています。対して、イタリア人奇術師ドッポや中欧貴族然とした男爵夫人など、中欧人を悪者として利用している点も時代の反映と見ることができます。
 本作はまた列車ミステリーとしても秀逸で、限られた空間をまったく狭さを感じさせずに乗り切っています。作中にはその列車内での軽いアクション・シーンもあって、一層娯楽性の高さを実感。個人的には戦前のサスペンス映画の筆頭に上げたいところです。

(アイ・ヴィー・シー)
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ヒッチコック関連作
(三十九夜、海外特派員)

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本作は「三十九夜」(1935)とともにヒッチコックのイギリス時代の代表作。こののち、やや評価が落ちる「岩窟の野獣」(1939)を経てハリウッドへ進出します。そして、いきなりオスカーを受賞する「レベッカ」(1940)を発表。様々なモチーフを詰め込んだ本作は、イギリス時代のヒッチコック作品の総仕上げのような位置づけでもあります。

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