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疑惑の影

Shadow Of A Doubt(1943年/アメリカ/108分)

[監督]アルフレッド・ヒッチコック
[原作]ゴードン・マクドネル
[脚本]ソーントン・ワイルダー、サリー・ベンソン、アルマ・レヴィル
[撮影]ジョセフ・バレンタイン
[音楽]ディミトリ・ティオムキン
[出演]テレサ・ライト、ジョセフ・コットン、マクドナルド・ケリー、ヘンリー・トラバース、パトリシア・コリンジ、ヒューム・クローニン、ウォレス・フォード、エドナ・メイ・ウォナコット、チャールズ・ベイツ

[内容]

 ニュートン家に久しぶりに叔父チャールズが帰ってくる。叔父を昔から好きだった長女チャーリーは喜びを隠せない。その数日後、二人の男が国の調査だといって尋ねてくる。が、チャーリーはその一人から、本当は刑事だと打ち明けられる。叔父は殺人の容疑者だというのだ ・・・。ヒッチコック監督のサスペンス・ドラマ。慕っていた叔父が殺人犯という苦悩と恐怖を描く。やや地味ながらもドラマとスリラーのバランスが絶妙で、この時期の作品としては完成度は高い。アンチ・モラルと内面の悲劇に焦点を当てた名作。
[評価]★★★★☆

cinema review

STORY

 カリフォルニアの田舎町サンタ・ローザ。ニュートン家の長女チャーリーは、しがない銀行員の父ジョーにもつつましやかな母エマにも不満を持ち、自分のいる平凡な家庭に退屈しているところだった。そこでふと、昔から好きだった叔父チャールズ・オークリーのことを思い出し、来てもらおうと思い立つ。興行師だという叔父は母の末の弟だった。が、ちょうどその時、当の叔父から家に来るとの電報が来て喜びを隠さない。
 エマは久しぶりの再会に感激し、ジョーも笑顔で迎える。一方のチャーリーは、同じ愛称の叔父とは他人の気がせず、親しみのこもったまなざしを向けていた。チャールズも姉エマに豪華なプレゼントを用意し喜ばせる。チャーリーにも指輪を贈る。しかしそこには、なぜか「B.M. から T.S. へ」という見知らぬイニシャルが彫られていた。チャールズは削らせると言ったがチャーリーは気にしないとそのまま貰い受ける。
 そんな時、家に二人の男が訪ねてくる。グレアムとサンダースは、国の仕事で、平均的な家庭のサンプルを取る調査を行っているという。エマは快く調査に応じるが、二人は執拗にチャールズに会いたがる。そしてチャールズの方もなぜか二人に会おうとはしなかった。その後、グレアムから町の案内を頼まれたチャーリーは楽しい時を過ごす。が、そこで、自分たちが、ニューヨークから叔父を追って来た刑事であることを打ち明けられる。叔父はある事件の、二人の容疑者のうちの一人だと言うのだ。
 協力を求められ戸惑うチャーリーだったが、いつか、叔父が夕刊を隠したことを思い出す。そしてグレアムと別れたチャーリーは図書館へ行き、その時の夕刊に目を通して愕然とする。そこには、三人の裕福な未亡人が絞殺され、犯人は逃亡中であると記されていた。しかも被害者の一人のイニシャルは、叔父からもらった指輪に彫られたイニシャルと同じものだったのだ ・・・。

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COMMENT

 アルフレッド・ヒッチコック監督のサスペンス・ドラマ。ドラマの部分とスリラーの部分とのバランスに優れ、ヒッチコック作品にしては地味なモチーフでありながらも、極めて高い評価を受けることとなりました。それまでは、若干間延び感があったり慌しすぎたりしましたが、本作あたりからリアルなサスペンスの上に人物をじっくりと描くというスタイルが安定することになります。
 カリフォルニアの小さな町に住むチャーリー(テレサ・ライト)の家に慕っていた叔父チャールズ(ジョセフ・コットン)が訪れます。しかしやがて刑事グレアム(マクドナルド・ケリー)が現れ、チャーリーに、叔父が連続殺人事件の容疑者であることを告げます。信じられないチャーリー。ふとしたことから叔父が真犯人だと悟るのですが、ショックを受ける母のことを思うと誰にも打ち明けられずに苦悩するというわけです。
 叔父が真犯人であることは映画の冒頭、ニューヨークのシーンで暗に示されます。そして見る側は事実を知りつつ、無邪気な姿を見せる主人公とのギャップに恐怖感を煽られていくのです。しかし真の恐怖は突然訪れます。階段が壊れて転落するチャーリー。この小さなシーンがこの後半を恐怖映画に一変させます。チャーリーが自分の正体に気付いたと知った叔父が、執拗にチャーリーの命を狙ことになります。
 主人公が真実を悟るまでの前半、命を狙われる後半、と、二つの恐怖を使い分けたことで実に密度の濃いつくりとなったことは確かでしょう。一方では、最初は平凡な家庭に落胆していた主人公が、家族を思って苦悩を深めてゆく流れが鮮やかです。その裏では刑事とのロマンスも描かれ、あるいは父と同僚とのおかしな会話でユーモラスな面も醸成したり、とドラマ性にも気が配られています。サスペンスだけに留まらず、多面的に見所をつくるのが、ヒッチコックが一流たる所以なのでしょう。
 また、アンチ・モラルという要素もヒッチコックの一面と言えます。世の中は醜い、と殺人を肯定する叔父の人物像は非常に恐ろしいもので、後の「ロープ」に登場する殺人犯の原型とも見れ、人間の存在そのものへの恐怖を見事に感じさせています。
 しかし最後、グレアムはチャーリーに言います。叔父は世間のせいにしただけだ、と。苦悩と悲劇に彩られた物語でありながら、真実が表に出ないまま終わり、しかしどこか円満さを醸成しているのは秀逸なラストではないでしょうか。最後にきちんと正義に軌道修正した点はこの手のヒッチコック作品では珍しいような気もします。いずれにしても、殺人シーンを描かなかったこともあり、本作はポピュラリティの高い作品になったと言えると思います。

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