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間諜最後の日

Secret Agent(1936年/イギリス/86分)

[監督]アルフレッド・ヒッチコック
[原作]W・サマセット・モーム、キャンベル・ディクソン(戯曲)
[脚本]チャールズ・ベネット、イアン・ヘイ(Dialogue)
[撮影]バーナード・ノウルズ
[音楽]ルイス・レヴィ
[出演]ジョン・ギールグッド、ピーター・ローレ、マデリーン・キャロル、ロバート・ヤング、パーシー・マーモント、フローレンス・カーン、チャールズ・カーソン、リリ・パーマー

[内容]

 ドイツの工作員を阻止するためにスイスに派遣された秘密諜報員ブローディ。しかし連絡員はすでに殺されていた。手がかりは連絡員が握っていたボタン。やがてそれが自分のだという紳士ケイファーが現れる。彼が工作員だとにらんだブローディは暗殺を試みるのだったが ・・・。第一次大戦を舞台に、非情なスパイ戦を描いたサスペンス。スリリングな展開の一方、ペシミズムを含んだ展開が特徴的。安定味を出してきた頃のヒッチコック作品。
[評価]★★★☆☆

cinema review

STORY

 第一次大戦中の1916年、ロンドン。ある教会で出征中の作家・ブローディの葬儀が営まれた。が、その棺の中は空だった。ほどなくしてある戦場。そのブローディが、“R”なる人物から秘密任務を言い渡される。アラブの支援をとりつけるためコンスタンティノープルへ向かう、ドイツ工作員を阻止せよとの命令だった。そして殺し屋として”将軍”と呼ばれる男にも引き合わされる。
 保険調査員アシュデンに扮したブローディは早速スイスへ向かう。ホテルでは“R”が派遣した妻役のエルサと初対面。翌日、“将軍”と共にブローディは連絡員の待つランゲンドルフ村の協会へと向かう。が、連絡員のオルガン弾きはすでに殺されていた。その時、ブローディは連絡員が握っていたボタンに気付く。連絡員が抵抗した際、犯人のボタンを引きちぎったのだ。
 その頃、エルサはロバート・マービンに誘われカジノへ出かけていた。マービンは人妻と知りつつもエルサに執心している様子。一方、ホテルへ帰ったブローディは、「敵は明後日出国する」という電報を受け取る。そしてエルサを追ってカジノへ出向く。そこで押されたはずみでボタンがルーレットへ。その時、自分のボタンだと言う男が現れる。温厚そうな犬連れの紳士・ケイファーだった。しかも今日一日ランゲンドルフへ行っていて、明後日に出国すると言う。ブローディはケイファーが工作員だと確信。”将軍”と一芝居を演じ、翌日山登りに誘い出すことに成功する ・・・。

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COMMENT

 原作は文豪サマセット・モームの "Ashenden"。スパイ小説創成期の一本と呼べるでしょうか。ヒッチコックにとってはイギリス時代後期の作品。この時期の特徴である心理的背景の唐突さをのぞけば、ほぼヒッチコック作品中期の作風に則っています。無実の人間が被害を被るというペシミスティックな面、罪を犯した者が逃れると言う閉塞性など。一方、平凡な原題("Secret Agent")に比べ、この邦題「間諜最後の日」はみごとにつけたもので、タイトルだけで見たいと思わせる雰囲気を十分に醸成しています。
 舞台は第一次大戦下のスイス。アラブへ向かうドイツの工作員暗殺のため、秘密諜報員としてブローディ(=アシェンデン/ジョン・ギールグッド)がイギリスから派遣。仲間は妻役のエルサ(マデリーン・キャロル)と殺し屋の“将軍”(ピーター・ローレ)。しかし連絡員はすでに殺され、手がかりは犯人のものと思われるボタン一個。やがてボタンを失くしていたドイツ人紳士ケイファー(パーシー・マーモント)を疑います。そして山に誘い出すと“将軍”が突き落として暗殺に成功。が、その直後、人違いであることが判明するのです。
 物語は、いつも通り、主人公二人(ブローディとエルサ)のラブ・ストーリーも並行して進行していきます。任務の傍ら二人がわずかな間で結ばれていくのはさすがに唐突感は否めません。一方、救いの薄い悲劇性も見られます。善良なケイファーが殺される。その死に呼応するかのようにペットの犬が鼻を鳴らし、また、ケイファー夫人の悲しみを映し出します。このような悲劇性もまたヒッチコック作品にはよく見られるモチーフ。爽快感がやや希薄になるのと引き替えに、感情的な側面を観客にアピール。無機的になりがちなスリラー映画ですから、ヒッチコック作品のポピュラリティを支えている一面と言えるかもしれません。
 スパイの非情さに嫌気がさしたエルサは辞職を決意。が、その時、真の敵の工作員がマービン(ロバート・ヤング)であることが分るのです。マービンは夫があると知りながらエルサに言い寄っていた男。三人はその事実に愕然とするのです。終盤はチョコレート工場からの逃亡劇。のちのヒッチコック作品で見られる逃亡シーンの原型を見ることができます。ヒッチコックは同じようなシーンを繰返し他の作品でも使うようなところがあって、だからこそ、徐々に完成度を高めていけたとも見れます。
 ケイファー氏の死への断罪の欠落と、ブローディとエルサが結ばれる結末たが、理不尽な対を成しているのが物語に影をつくっています。とはいえ、おもしろさは相変わらず。この時期のサスペンス映画で、今なお観る者を夢中にさせられるのは、やはりすごいことと言わねばなりません。

(アイ・ヴィー・シー)
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