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断崖

Suspicion(1941年/アメリカ/99分)

[監督]アルフレッド・ヒッチコック
[原作]フランシス・アイルズ
[脚本]サムソン・ラファエルソン、ジョーン・ハリソン、アルマ・レヴィル
[撮影]ハリー・ストラドリング
[音楽]フランツ・ワックスマン
[出演]ケイリー・グラント、ジョーン・フォンテイン、サー・セドリック・ハードウィック、ナイジェル・ブルース、デイム・メイ・ホイッティ、イザベル・ジーンズ、ヘザー・エンジェル、オリオル・リー、レジナルド・シェフィールド、レオ・G・キャロル

[内容]

 リナはプレイボーイで有名なジョンと結婚。華やかな新婚生活を送るが、ほどなくジョンが文無しだと分り驚く。しかも公金を使い込み弁済を迫られていた。そんな時、ジョンの裕福な親友ビーキーが来訪。リナはジョンが金目当てにビーキーを殺すのではと疑い始める ・・・。叙情色豊なヒッチコックのロマンチック・スリラー。ラブ・ストーリー風の前半、サスペンスをメインにした後半、と、名作「レベッカ」のつくりを踏襲。感動のドラマだが、両方共に大味になった感も。
[評価]★★★☆☆

cinema review

STORY

 イギリス。リナ・マクレドロウの一等のコンパートメントに若い男が入ってくる。三等の切符しかない男は追加料金の持ち合わせがなく、仕方なくリナが肩代わりする。ほどなくリナは読んでいた雑誌に目の前の男が載っていることに気付く。男はジョン・エイズガースという社交界きってのプレイボーイだった。
 一方、その後の狩猟会で、ジョンは馬上のリナを見かけて驚く。電車では野暮ったかったリナが見違えるほどに美しく見えたからだ。ジョンはリナに接近。リナもジョンに好意を持つ。が、リナの家は名家で父は元将軍。ほどなく両親から、ジョンが放蕩息子で有名な女たらしだと耳にする。両親はまた、婚期を過ぎた自分の結婚を諦めていることも知り、寂しい思いをしていた。
 しばらくして二人は結婚。しかしリナは両親に言い出せず、駆け落ち同然だった。豪華な新婚旅行。新たに借りた豪邸にはメイド。金の心配をしてリナが聞くと、はじめてジョンが文無しであることを知り驚く。しかもリナの遺産を当てにして借金をしていた。リナが働くようにすすめると、ジョンは従兄弟のメルベック大尉の許で仕事をするようになる。
 が、公金を使い込んでクビ。弁済を迫られるようにもなる。そんな時、ジョンの親友でビーキーという気のいい裕福な男が訪ねて来る。ジョンはそのビーキーの出資で土地開発事業を計画。が、すぐに撤回。リナはジョンの不審な様子を見て、金目当てにビーキーを殺すのではと疑い始める。そしてある日、本当にビーキーが不可解な死を遂げてしまう ・・・。

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COMMENT

 ヒッチコック監督中期のロマンティック・スリラー。本作の原作は "Before The Fact" (直訳 = 犯行前)。滅多に原題を使わないヒッチコックは "Suspicion" (疑惑)というタイトルを採用。これは原題が持つイメージの一つ。一方、邦題は「断崖」、とやや的外れ。作中のシチュエーションの一つではありますが、おそらくは危険な香りをこの一句に象徴させようとしたのでしょう。ヒッチコック作品には、なぜかちょっとずれた邦題の作品が多いのはおもしろいところです。
 物語はリナ(ジョーン・フォンテイン)とジョン(ケイリー・グラント)の偶然の出会いから始まります。片やまじめでお堅い名家のお嬢様。片や節操のない社交界の有名人。環境も性格も正反対の二人が惹かれ合い結婚。が、リナはジョンが無一文であることを結婚後に知るのです。実はリナの遺産を当てにしていたジョン。しかし父が亡くなり入ってきたのは肖像画だけ。この時ジョンは勤めていた会社の金を使い込んでいたため、返済できず窮地に立たされます。
 前半、二人の出会いからハネムーンまではほぼラブストーリー。が、ジョンの親友ビーキー・スウェイト(ナイジェル・ブルース)の登場からスリリングな展開へと入っていきます。ビーキーが不審な死を遂げたと知ると、リナはジョンを疑い始めます。金目当てに殺したのではないか。さらに、生命保険ほしさに自分をも殺すのではと推理。それを裏付けるかのように、ジョンは毒に対して異常な興味を示すようになるのです。
 やや強引な進行ながら、リナがジョンを疑う過程が実に鮮やか。リナの疑惑がひとつひとつ符合していく様子が立て続けに描かれていきます。ジョンは本当にビーキーを殺したのか、そして自分は殺されてしまうのか。確かにジョンを愛していながら疑念を抱き、そして別れることができず苦悩するリナの姿が、何とも本作を美しいドラマに昇華させています。ジョーン・フォンテインの名演も堪能したいところです。
 オスカーを獲得した「レベッカ」にやや似通った展開で、前半ラブストーリー、後半サスペンスが中心。ただ、スリラーとしては統一感は希薄。むしろ叙情的なラブ・ストーリーの上にサスペンスを乗せたつくりとなっています。逆に、サスペンス色を随処に出したため、ラブストーリーとしての感情描写ではやや大味になったことは否めません。どちらをとっても大変魅力的なモチーフなのですが、この時期のヒッチコック作品としては、好みが分かれる一本かもしれません。

(アイ・ヴィー・シー)
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アルフレッド・ヒッチコック
(バルカン超特急、レベッカ)
ジョーン・フォンテーン
(ジェーン・エア、影なき裁き)
ケイリー・グラント
(めぐり逢い、汚名)

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 本作や「レベッカ」など、叙情色の濃い作品をヒッチコックがつくるようになったのはこの時期から。同じ年にサスペンス無しのコミカルなドラマ「スミス夫妻」を制作しているのもその表れかもしれません。この少し後には、やはり叙情色の強い名作「白い恐怖」を発表しています。この作品はサイコ・スリラーの草分けでもあります。

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