Index

HOME > 小説TOP > 読書録

Information


あした天気にしておくれ

(あしたてんきにしておくれ)

著者 : 岡嶋二人
発行 : 講談社文庫
あらすじ ...
 三億二千万という当時史上最高額で落札された仔馬セシア。ある日、生産牧場である南雲牧場から共同馬主の一人である鞍峰の牧場へと移送されます。しかし、ちょっとした事故でその日のうちにセシアは骨折。一生レースができない体になってしまいます。
 他の三人の馬主たちへの賠償を恐れた鞍峰は、持ち馬の管理を担当している朝倉に相談します。最初は反対した朝倉でしたが、ある計画を考えつきます。それはセシアを、誘拐を装って処分してしまおうというものでした。
 この計画は実行に移されます。身代金は二億円。しかし、払うことはないとの予想に反して、他の馬主は身代金の支払いに応ずる構えを取ります。さらに驚くべきことに、朝倉の元に二億円を払えという本物の脅迫が届きます。何者かが朝倉たちの計画を知って介入してきたのです。
 しかし彼らが捕まれば自分たちの犯罪も露見してしまいます。警察より先に本物の脅迫者を探さなければならなくなった朝倉。その間にも、馬主たちは身代金の準備を着々と進め、警察は徐々に捜査網を狭めてきます。
 やがて、本物の脅迫犯が身代金受け渡しの場所に府中競馬場を指定してきます。必死の奔走にもかかわらず何の成果も出せない朝倉。そしてついに受け渡し当日、二億円を手にした馬主たちが競馬場に向かいます。警察の万全の包囲網の中、そこで犯人が要求してきたこととは・・・。
コメント ...
 岡嶋二人は徳山諄一と、井上泉の二人のこと。本作はその初期の競馬ミステリー。日本では数少ない競馬がモチーフのミステリー。サスペンスの色も濃く、抜群の面白さをほこります。本作品の発表は昭和56年(1981)ごろ、本になったのは昭和58年(1983)ということですでに四半世紀を経過してしまっています。日本の競馬のシステムは当時と比べるとかなり様変わりしていて、本作で使われているシステムや用語の中には、複合馬券など、今では当てはまらなくなっているものもあります。が、作品中わかりやすい説明がされているので、とまどうことはないかと思います。
 と、先にこんな注意書きのようなことを書いたのは、本作が世に出たのが1983年であると言いたかったからです。ただし、余談になります。
 忘れられない事件。1981年、世界競馬の頂点であるイギリスダービーを前代未聞の強さで優勝した馬の名を"シャーガー"といいます。翌年種牡馬入りし無事種付けを終えますが、翌2年目(1983)の晩冬、シャーガーは突如誘拐されてしまうのです。犯人は200万ポンド(7億円以上)の身代金を要求。しかしオーナー側はこれを拒否。結局シャーガーは行方不明のまま。犯人は捕まらずじまい。IRAの犯行とのうわさもありましたが真偽がつくまでには至らなかったようです。
 事件が起こったのは本作品が書かれたのとほぼ同時期。ややっ、奇遇なこともあるもんだ、などと冗談を言ってはいられないほど、当時、世界中の競馬関係者は憤慨したものです。
 さて本作。トリックについて、当時、実現不可能との指摘があったそうです。歴史小説で間違った史実を書いたらアウトですよね。同じように本格推理で実現不可能なトリックはペケ。ということなのでしょう。もちろん歴史小説でなければ、あるいは本格推理でなければ何の問題もない、という認識でいいのかな?
 まあ、本格推理ファンなら気になってしょうがないかもしれませんが、このストーリーのおもしろさは、トリックなど抜きにしても、サスペンスとして十二分に楽しめるものであることは保障できます。むしろ、この作品に関しては、個人的には本格推理物という認識がありません。まさに"息詰まる"ほどの展開が次々と読者の前に提供されてきます。夜読み始めたなら、徹夜は覚悟したほうがいいかもしれません。
 ただし、個人的にはもう少し人間味が欲しいところ。主人公朝倉は家庭に問題を抱えているのですが、愛憎劇というほどでもありません。が、あとはひたすらテンポの良い状況描写が続きます。まあ、これはあくまでも、人情物好きの筆者のの個人的な欲求です。
 それから冒頭の数ページ。ここだけは玉に瑕かもしれません。登場人物をいっぺんにずらずらっと並べられるので何度か読み返してしまいました。ただし、このあたりは本格ミステリーにはよくあることなので、ファンにはなんでもないことかもしれません。
 ともあれ、単純に読んで楽しめる本だと思います。次に何が起こるのか。本当に予測できないことが起こるのですから、このストーリーテラーぶりは生半可じゃありません。読みたいけど競馬を知らない? いやいや知らなくても大丈夫。専門知識など不要。まだ読んでない方で興味が湧いた方は安心してお読みください。

・・・ 関連作品 ・・・
 岡嶋二人はデビュー作も競馬ミステリー。「焦茶色のパステル」は血統がモチーフ。みごと第28回江戸川乱歩賞に輝いています。
 それから、本作同様脅迫をモチーフにした西村京太郎の「日本ダービー殺人事件」。おなじみ十津川警部が事件の謎に挑みます。


・・・ 関連レビュー ・・・

www.sasaraan.net

book review

(c) morijoh