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風林火山(ふうりんかざん)
- 著者 : 井上靖
- 発行 : 新潮文庫
- あらすじ ...
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ある時山本勘助は、知人の青木大膳から、武田家の重臣・板垣信方に仕官を頼みに行くことを耳にする。すると勘助は、大膳が信方を襲い自分が助けに入る、その功で自分が仕官したら大膳を呼び寄せる、と言いくるめその通りにさせる。が、勘助は大膳を本当に斬り捨ててしまう。自分の軍略を思いのままに試してみたい。勘助の野望は武田家で拓かれることになる。
早速当主・武田晴信に目をかけられた勘助は足軽大将に。やがて晴信は諏訪に出陣。周りが力攻めを主張する中、勘助は、気乗りしない様子の晴信の心中を察し和議を主張する。諏訪頼重は晴信の妹婿であった。勘助が使者に立ち和議は成立。それから頼重は掌を返したように度々晴信の館を訪問するようになる。 しかしそれを見た勘助は不審を覚える。こう度々では晴信もお返しに諏訪へ行かねばならない。晴信暗殺には絶好の機会となるはずだ。勘助は、今度は頼重暗殺を進言。頼重は晴信jの館で討ち取られてしまう。そして再び諏訪へ出陣。武田軍は各地で圧勝する。 ある時、勘助が高島城へ入城した時のこと。勘助は諏訪家の姫・由布と出会う。由布姫は侍女に自刃を促されるが、頑なに拒み生への執着を顕わにする。そして、もみ合ううちに気を失った由布姫を、勘助は古府に連れ帰ることに。勘助はすっかり由布姫の美しさと強さに魅了されていた。が、由布姫を見た晴信は側室にしたいと言い始める。由布姫にとって晴信は何度殺しても飽き足らないほどの仇。重臣たちが反対する中、勘助が由布姫説得の命を受け奔走するのだったが ・・・。
- コメント ...
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戦国武将・山本勘助の半生を描いた歴史ドラマ。山本勘助は武田信玄の軍師を務めたと言われますが、実際には存在したかどうかさえ明確ではありません。実在したとしても、軍師というほどではなかったというのが通説のようです。その名は甲斐武田氏について記された「甲陽軍鑑」に登場。が、江戸時代重宝されたこの書物が曲者で、史実と想像が入り混じっているらしいことが分っています。本編は、歴史モノとしてよりは、勘助の生き様を描いたドラマとして読みすすめるのがいいように思います。
物語は1545年頃から始まります。実は年代は明記されていません。武田信虎(晴信の父・苛烈な性格で家臣たちから嫌われていたと言われる)が追放されて四、五年とだけ記されています。いずれにしてもこの頃武田晴信(後の信玄)は20台半ば。いまだ甲斐一国の小大名にしか過ぎません。が、やがて晴信は信濃攻略に乗り出し成功。戦国の巨人の地位に登りつめていくわけです。 勘助の活躍は、その足がかりとなる諏訪攻略からすでにはじまります。この時、勘助が晴信から信頼を得るのは、策によってではないところが興味深い点。勘助は晴信の感情をいち早く慮り、それに添った案を進言するのです。が、一方、勘助の不遜な態度は一部の重臣を不快にさせます。この勘助の器用さと不器用さとのバランスの悪さこそ、勘助の人物像を象徴しているように思います。冒頭のわずか30ページほどの中からは、勘助の人物像を確かにうかがい知ることができます。 物語はこの勘助を主人公とし、晴信との主従関係、由布姫との繊細な交流を中心に描かれています。しかし晴信に関しては脇役に過ぎません。勘助の人生は信玄との出会いによって拓け、由布姫によって決定付けられたと見ることができます。しかし由布姫は信玄の側室になってしまいます。それでも勘助は、確かに由布姫に恋をし、その生涯を由布姫に捧げたのです。 ここで描かれたのは、戦国武将の生き様ではなく、一人の人間のロマン、もっと言えば、一人の人間が理想によって生き空想のうちに滅んでいく姿ではなかったでしょうか。一国を治めるのでもなく、一城の主になるのでもなく、一方では実ることのない恋にしがみつく。しかしそんな中に生きるエネルギーを燃焼させる。つまりは現実を我が理想に結び付けていく生き様こそが、勘助の人生の面白さである気がします。 ところで、タイトルの「風林火山」とは信玄が旗に使っていた文言。中国の兵法書「孫子」の中に、その一節があるそうです。「疾如風徐如林侵掠如火不動如山」が、その全文。すなわち、はやきこと風の如く、しずかなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如し。上杉謙信が毘沙門天の「毘」の文字を旗に書いていたのとは対照的です。理想主義者の謙信に対して、信玄が現実主義者であることを示すものともいえます。 はたして、信玄の象徴である「風林火山」の一節によって、山本勘助の生涯を象徴しようとしたのかもしれません。物語は川中島の決戦で幕を閉じます。いわゆる「きつつきの戦法」を勘助が進言。が、策は謙信に見破られ、勘助はその責任を負うかのごとく謙信めざし突撃していくのです。その終わりはあまりにも生々しい描写ではあります。そんな中にも続く激しい合戦の音。生も死も生々しいもの、人生のはかなさが勘助の死とともに聞こえてくるようでもあります。
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