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二つの山河(ふたつのさんが)
- 著者 : 中村彰彦
- 発行 : 文春文庫
- あらすじ ...
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【二つの山河】
1914年、日本は第一次大戦に参戦。イギリス軍と合流して、ドイツ租借地・青島(チンタオ)攻略を開始します。ドイツ軍は寡兵ながら善戦。しかし孤立無援でもあり、ほどなく降伏。四千六百名余りが捕虜として日本に送られることになります。 ドイツ兵たちは全国十二ヶ所の俘虜収容所に護送。が、劣悪な収容所の環境下で差別や暴力が行われ、俘虜たちの不信をまねきます。やがて俘虜たちの窮境はドイツ外務省に達し、当時中立国だったアメリカが調査。多くの収容所が不適当との批判をまとめます。が、徳島では、単調な食事以外はまったく問題ないと評価。その所長は、後に真のサムライと讃えられた松江豊寿中佐でした ・・・。
【臥牛城の虜】
慶応三年(1867)十月、徳川慶喜が大政を奉還。九日後、その報が下総結城城にもたらされます。国家老・小場兵馬は早速同役の水野又兵衛らと協議。勤王の姿勢をとることでまとまります。が、十二月、王政復古の号令が出たにもかかわらず、江戸にいた藩主・水野勝知は、旧幕府から江戸城半蔵口門番を依頼され、引き受けてしまいます。 反朝廷ともとられかねない勝知の行動に兵馬は茫然。使者を送りますが結果は芳しくなく、一方、筆頭家老・水野甚四郎の入れ知恵であることがわかります。翌一月、兵馬はみずから江戸上屋敷へ。藩主・勝知を説得し、甚四郎を罷免することに成功するのでしたが ・・・。
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中村彰彦著の短編集。「二つの山河」、「臥牛城の虜」(がぎゅうじょうのとりこ)、「甘利源治の潜入」の三本が収められています。時代背景は、一本目は大正期、あと二本は幕末維新。それぞれにカラーが違っていてドラマティック。痛快、哀切、そしてシニカル、と、様々な感慨を覚えることができる作品群ではないでしょうか。
「二つの山河」は、坂東俘虜収容所長、松江豊寿の物語。第一次大戦で日本はドイツ兵捕虜を収容。しかし劣悪な環境でドイツやアメリカから批判を受けることになります。そんな中、徳島俘虜収容所だけは違っていました。収容所側と俘虜側には親密な連帯感が築かれ、ドイツ兵たちの技術は、地域住民に広められたとか。その所長が松江豊寿中佐であり、後に、新のサムライと讃えられることになるのです。 当時はともかく、第二次大戦中の日本軍捕虜収容所は極めて評判が悪く、大島渚監督の映画「戦場のメリークリスマス」やスティーブン・スピルバーグ監督の「太陽の帝国」などで、その惨状を垣間見ることができます。最も有名なのは「戦場にかける橋」ですが、これは著者ピエール・ブールがみずからの体験談が下敷きとなっていました。 そんな先入観があるせいか、本作はいかにも痛快劇、というイメージがあります。時には上官の指示に反してまでヒューマニズムを貫き通した松江豊寿という人物には共感を禁じ得ません。このような人物を掘り起こしてくれた著者には感謝の念さえ湧いてきます。 「臥牛城の虜」は、幕末、下総一万八千石の小藩・結城藩の騒動を描いたドラマ。主人公は国家老の小場兵馬。大政奉還、王政復古の大号令にもかかわらず藩主は旧幕府に傾倒して反政府側に加担。あくまで勤王を貫き、藩を守ろうとする兵馬の、不毛に近い奔走を描いていきます。事は何とか納まり、藩の存続が成るも、藩主を追い落とした兵馬の武士道はそれでは済みませんでした。革命期に起こった小さな悲劇と呼べるかもしれません。 同じ幕末維新が背景の「甘利源治の潜入」ですが、こちらは佐幕派の武士の姿を描いたもの。主人公甘利源治が、名と身分を偽り、勤王派グループに潜入。見事相手方を討ち取るのですが、やがて思いもかけない悲劇に見舞われることになるのです。前者二人が無私に近い思想の持ち主であったのに対して、源治には仕官というエゴが動機にあります。非情な世界に身を投じた者の末路もまた非情なもの。皮肉な運命により滅んでゆく男の姿がそこにはあります。 本書では、タイプこそ違いますが、三作いずれもが、武士の生き様を描いたとも見て取れます。武士の本質とは一体どこにあるのか。そんな点もひとつの見所になるかもしれません。
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