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読書録
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炎立つ
(ほむらたつ)
著者 : 高橋克彦
発行 : 講談社文庫(全五巻)
あらすじ ...
十一世紀半ばの陸奥。陸奥守・藤原登任(なりとう)が奥六郡の豪族・安倍頼良の子・貞任(さだとう)の婚儀に招かれます。そこで出された贅を尽くした引き出物。中でも金の杯は登任の目の色を変えさせます。あと二年の任期を残す登任は、その間に奥六郡を手に入れようと画策。頼良に無理難題を押し付け戦に持ち込もうとしますが、亘理郡司・藤原経清の説得によって一度は諦めます。
が、安倍氏の様子を探るため、経清の親友・平永衡が登任の命で頼良の娘・菜香を娶ることになり、一方で、都から平永衡を出羽城介に迎えることに成功。再び戦の準備に入ります。その頃、経清は都へ登任の使者として出向き、ふとしたことから、後に因縁となる源氏の棟梁・源頼義と主従関係を結ぶことに。
ほどなく、平永衡は兵を伴って奥州へ到着。そんな中、登任の理不尽さに我慢できず、永衡は安倍氏の元へ奔ります。そして経清の制止もむなしく、登任と永衡は進軍を開始。永衡は要衝・鬼切部に布陣。一方、戦の覚悟を決めた安倍一族。貞任が指揮を執り、雪中、わずかな兵と共に道なき道を進みます。そしてついに鬼切部の背後に出た貞任は永衡の陣を奇襲。十年以上にわたって展開する前九年の役が幕を開けます ・・・。
コメント ...
安倍氏から奥州藤原氏へと続く系譜の百五十年にわたる興亡を描いた歴史大河。後半、源義経と共に滅んでゆく有名な話が語られますが、前半の主役は奥州藤原氏の祖である藤原経清。実際は出自が明確ではありません。亘理郡の郡司であったことから亘理(亘)経清とも言われ、藤原氏を名乗っていたことは確かなようですが、本当に藤原氏の子孫なのか、僭称していただけなのかは不明のようです。本書では、無官でありながら高位を授かっていたことから、大きな失態をした藤原氏の子孫と推測して物語を進めています。
奥州藤原氏の話で常に気になるのが、民の暮らしはどうだったのだろうということ。金により栄えた奥州藤原氏ですが、そのあたりはあまり伝わっていません。はたして善政であったのかどうか。金により富んでいたのは一部の支配者だけではなかったのか。そう考えると、本作では悪役の源頼義の見方が180度変わってきます。また、奥州十(数)万騎とはよく言われましたが、まとまって動いた形跡はほとんどないようで、決して一枚岩ではなかったことがわかります。私論ですが、朝廷や鎌倉の奥州への過大評価も、奥州藤原氏と源義経の悲劇の一因となったのではないでしょうか。
一方で、俘囚(蝦夷とも : 異文化を持ち、かつて朝廷支配を拒んだ奥州以北の人々)と蔑まれてきた安倍氏〜清原氏〜奥州藤原氏にとって、差別を振り払うことは悲願であったことは確かなようです。官位への固執、都をまねた町や建築など、すべてはそのための努力でもあったようです。
ともあれ、本作は一大エンターテイメントと言っていいと思います。奥州藤原氏の歴史エピソードを土台に、情感豊かな人間ドラマを展開させています。歴史的な背景を排除した代わりにきわめて分かりやすいシチュエーション。誰もが "おもしろい" と思えるプロット。会話などはやや一本調子なのですが、劇的な展開の連続とテンポの良さで終始読者を飽きさせることがありません。歴史モノである以上に娯楽小説として幅広い層で楽しめる物語ではないでしょうか。このあたりは、ミステリーやホラー、SFなど、多彩さを見せる著者の強みと言えるでしょう。
物語は、十一世紀半ばの陸奥の国。さらに内陸の奥六郡と呼ばれていたところを支配していた安倍氏。その長男・貞任(さだとう)の婚儀から始まります。すべての発端は、当主・安倍頼良が金の引き出物を出したこと。安倍氏の金に目がくらんだ陸奥守・藤原登任(なりとう)が強引に戦を仕掛け奥六郡を手中にしようと企てます。が、この戦はたちまち敗北。ところが、次に任命された源頼義は奥州の台頭をよしとせず、また、源氏の勢力拡大を狙っていたこともあり、安倍氏への戦を画策するのです。その中で、謀略、裏切り、痴情、友情、様々な人間ドラマが見事に物語りに絡み付いてきます。
この間、藤原経清は安倍氏の娘・結有(ゆう)と政略結婚。が、頼義の理不尽さに嫌気がさした藤原経清は反逆して安倍氏に奔ってしまいます。そして経清と貞任の知略で一度は勝ちを収めたものの、最後には裏切りが相次ぎ、源頼義・義家親子、清原氏の連合軍に敗退してしまう安倍氏。これが後に言う前九年の役。奥州に楽土をつくるという経清と貞任の夢は敗れ、一族は、経清の妻・結有と子・清丸(のちの清衡)を残して滅亡することになります。
その後、結有は恥を忍んで敵の清原氏に嫁ぎ、しかしそれは安倍氏再興と復讐を賭けた執念。一方、経清を尊敬し、同情していた源義家が、清衡の後ろ盾となって盛り立てるようになっていきます。そして、家を継いだばかりの清原真衡(さねひら)の傲慢と専制に怒った同族・吉彦秀武(きみこのひでたけ)が反旗を翻し、これに義家が介入。約五年にわたる清原一族の潰し合い、後三年の役が始まります。義家の智謀により次々と倒れていく清原氏の世継たち。そんな中義家の労で父祖の地を回復する清衡。ついにはただ一人残り、宿願の復讐を遂げる結果となるのです。これをきっかけに、清衡は藤原姓に戻り、奥州に地盤を確立。経清、貞任の楽土建設の大業を引き継ぐことになります。これが奥州藤原氏の始まり。
この二度にわたる陰惨な戦で、奥州は百年の太平をつかむことになります。が、秀衡(ひでひら)に代替わりした終盤、源義経をかくまったことで滅亡への扉を開いてしまいます。源氏とは宿縁と言えるのでしょう。最後には頼朝の政略に敗れ、座して死を待つ形になってしまいます。百年平和の中にあった奥州にどれほどの戦力があったのか。あるいは動けるほどのまとまりがなかったのかどうか。ともかく、奥州勢力が世に出ることはついになく、藤原一族は、まさに一夜にして滅亡してしまうことになります。
物語の圧倒的なおもしろさとは裏腹に、節目節目は壮大な悲劇で結ばれます。読んでいて何とも切ない思いに駆られます。が、それは歴史的な事実でもあります。事実と物語が見事に融合して、却って大きな感動を生んでいるのだとも言えるでしょう。そのおもしろさを支えているのが、クライマックス志向、とでもいうのでしょうか。とにかくツボを得た盛り上げ方。随所で涙するほどの感動的なシーンに出あうことになります。多くの人は、お気に入りのシーンのために再読に臨むことになるでしょう。ともあれ、黄金楽土を目指したとされる奥州藤原氏の悲劇。それを、これほどまでドラマチックに描いた作品は他にはないように思います。これは普段歴史モノを読まない人にもおすすめです。
・・・ 関連作品 ・・・
奥州藤原氏は終盤、源義経と運命を共にします。その義経を描いたのが「義経」。数ある義経ものの中でも、その人物を冷静に見つめた司馬遼太郎著の
「義経」
は、歴史重視の作品です。
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(c) morijoh