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後宮小説(こうきゅうしょうせつ)
- 著者 : 酒見賢一
- 発行 : 新潮文庫
- あらすじ ...
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1607年、時の素乾国国王が急逝。十七歳の皇太子が即位することになります。そして皇太子のために新たな後宮づくりが行われることに。早速宮女狩りのため国中に散る宦官たち。自分が連れてきた娘が後宮に入れば出世も思いのままとあって気合が入ります。真野もその一人でしたが、担当した先は僻地の田舎。
一方、宮女になると三食昼寝つきだと聞いて応募した十四歳の少女銀河。自分の国の名前すら知らない田舎娘でしたが、他にめぼしい娘が見つからない真野は仕方なく銀河を連れ帰ることにします。そんな一行。道半ば、山賊が出ると聞いて怖気づき立ち往生。地元のやくざものの大将格平勝に警護を頼むことに。早速数十人の部下を引き連れてやってきた平勝と兄貴分の渾沌。しかし渾沌は銀河の中に輝くものを見出していました。 後宮に到着すると国中から集まった宮女の候補生たちを見ることになります。中でも同じ部屋になった三人はいずれも一癖も二癖もある女性ばかり。さらに双槐樹という不思議な女性にも出会います。やがて宮女になるための"女大学"が始まり、宮女候補生たちはふるいにかけられることに。学問など苦手な銀河は失敗をしてばかりでしたが、その天真爛漫さゆえ逆に目をかけられます。 同じ頃、政治は腐敗し、宮廷は権力闘争に明け暮れる日々。そんな中、平勝と渾沌が退屈しのぎに兵を挙げます。しかし、その勢力は瞬く間に広がって・・・。
- コメント ...
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歴史もの? ではありません。中世中国を模した全く架空の物語。しかし読者にそう信じさせる要素は十分にあります。歴史描写がふんだんに使われ、文献の名前、時には文献からの引用表現まであって、何とも手の込んだ演出。これらをちりばめながらの状況描写や時代背景の解説が見事なまでに本物の"歴史"を感じさせるのです。ようやくこの物語がつくりものとわかるのは、個性的なキャラクターたちのくだけた会話を聞いてから。もちろん感心するのはつくりだけではありません。エンターテイメントとしてのおもしろさも抜群。ちょっとした感動作と言ってもいいでしょう。
本物語の世界、現実には"明"末期の時代。やがて新国家"清"へと遷り変わるわけですが、物語でも激動の時代。賊が横行する、十分な警護がない、という序盤から、すでに疲弊した時代であることがわかります。やがて宮廷内の陰謀などが明らかになると、新しい時代へ生まれ変わる必然のような感覚で時代の推移を捉えることができます。そんな中、時の皇帝が没し新帝のために新しい後宮がつくられることに。そこに応募したのが"銀河"だったのです。天真爛漫で裏表のない銀河は、学問はからっきしなのに、いつの間にか皆に一目置かれる存在になっていきます。 序盤では登場人物が一通りそろいます。各キャラクターの個性が活き活きと描かれ、読んでいてすんなりと記憶の中に入っていくのがわかります。特に銀河の同室の宮女候補たちは立て続けに登場するのですが、インパクトのある会話だけで見事に読者に印象付けています。中盤はもっぱら"女大学"での講義。しかしここで各先生と菊凶なる人物が新たに登場し、いずれも後に重要な役を演じることになります。 ここまで、物語はひたすら銀河を追ってきました。そのおもしろさにもかかわらず、驚くほど"静"の物語であることに気づきます。一人の少女の体験を追ったドラマなのです。が、終盤。ここで権力を争う宮廷の人間関係や地方の反乱の様子などが加わると、物語のスケール感は一気にアップします。そのきっかけ。途中で目を転じさせたのが、平勝と渾沌の動向。特に渾沌は時代を映した鏡のような存在。一方、宮廷の角先生は知の象徴であり、物語中で、二人が論じ合えばおもしろい、と言わせているのは興味深いこと。が、結局、二人は時代をつくることはできなかったわけです。 真理とは何か? 物語中で角先生が問いかけてきます。そしてこうも言います。それは子宮である、と。だから国家の真理は後宮にあるのだ、と。果たしてどこまで作者の哲学を反映しているものなのか。いずれにせよ、結局、物語で時代を築く礎となったのは銀河に他なりません。 近世中国を架空の世界に置換え、見事なまでに世界観を構築した本作。おもしろさ十分のドラマもさることながら、哲学的な描写にもかなりの量が割かれています。時にわくわくし、時に感動し、時に考えさせられる。架空歴史小説の名作と呼べると思います。ちなみに、本作品は単発のTVアニメにもなっていたはずです。こちらはやや低い年齢層が対象。見たい方はレンタルビデオで借りられるかもしれません。
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