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王城の護衛者(おうじょうのごえいしゃ)
- 著者 : 司馬遼太郎
- 発行 : 講談社文庫
- あらすじ ...
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【王城の護衛者】 会津藩に嗣子がなく、美濃高須松平家から容保(かたもり)が養子として入ってきます。容姿才智に優れた容保は、律儀者でも知られていました。時は黒船以来の変動期。幕府でも例外的な人事が相継ぎ、政治総裁に松平春嶽、将軍後見に徳川慶喜が就任。二人は、志士が跋扈する京の主導権を取り戻すため、新役職・京都守護に容保を任命します。京に何の地盤もなく固持した容保ですが、ついには二人に押し切られて就任。藩兵を率いて上洛することに。
孝明天皇からの篤い信頼を取り付け、志士たちにも理解を示し、緩やかに取り締まっていた容保。しかし、足利将軍像を破壊する事件が起き、容保の方針は一変します。それは、志士たちの狙いが倒幕に及ぶ表れでもありました。会津は藩祖以来、将軍に一途に忠勤、との絶対的な家訓があったのです ・・・。
【加茂の水】 幕末。琵琶湖畔の漁村に、玉松操という下級公卿の老人が住んでいました。玉松は学才豊にして熱烈な攘夷・倒幕・王政復古の支持者。一方、洛北に退隠していた岩倉具視(ともみ)。薩摩藩とひそかに手を結び倒幕を画策していました。が、岩倉には文才がなく、名文家が必要だったところ、玉松の名前が挙がります。が、岩倉は開国主義者。玉松の図抜けた謀才を見抜いた岩倉は、自分の主義を隠して玉松を参謀に招聘することに。 そして岩倉の筆を代行するようになった玉松は、ついに倒幕の密勅を偽造するまでに至ります。さらに、倒幕戦に錦旗を立てたいという岩倉。が、それは誰も見たことがない幻の御旗。すると玉松は錦旗の偽造にも手をつけはじめ ・・・。
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全5本が収められた短編集。「王城の護衛者」は会津藩主・松平容保、「加茂の水」は岩倉具視の参謀・玉松操、「鬼謀の人」は新政府軍の司令官・大村益次郎(村田良庵)、「英雄児」は長岡藩家老・河井継之介、「人斬り以蔵」は土佐郷士・岡田以蔵が、それぞれ主人公。すべて幕末維新期の人物となっています。
なお、「鬼謀の人」は「花神」、「英雄児」は「峠」として長編小説にもなっています。また、岡田以蔵に関しては、「竜馬がゆく」の中に相応の描写が含まれています。その点では、「王城の護衛者」と「加茂の水」は歴史的にも貴重な物語と言えるかもしれません。
「王城の護衛者」は悲運の会津藩主・松平容保を描いたもの。英明・端麗・律儀で形容される容保ですが、その不運は、京都守護職というわけの分らない新設職に就かされたことから始まります。王城守備が名目ですが、その実、その目的のために大きな権限が与えられることになります。しかし、容保の立場が完全に正当正義であったこともまた事実です。幕府のみならず、孝明帝からも異例とも言える寵を受けたのです。そして孝明帝自身は佐幕派であり、極端な攘夷思想の持ち主でした。容保の立場は、幕府から見ても、帝から見ても、同じ基礎の上に成り立っていたわけです。 が、容保の運命を変えたのは孝明帝の崩御でした。明治帝が即位し、立場が一転したのです。薩長のすばやい朝廷工作に対し、会津藩は外交的にはほとんど無能力の藩でした。そして新撰組の件もあり、新政府軍の会津に対する憎悪は凄まじいものであったようです。さらに徳川慶喜の優柔さが拍車をかけました。鳥羽伏見の戦いの後、慶喜は容保を無理やり引き連れて江戸に帰ってしまうのです。 その後会津藩は滅亡。滅亡後も新政府からは苛烈な扱いを強いられました。しかし容保は多くを語ることなく、ただ、孝明帝の御私信を肌身離さず持っている事で、みずからの慰みとしたということです。帝が武家に直筆の書を下されることは、当時の感覚ではありえない出来事だったのです。本編では、二人の信頼の篤さが感動的に描かれています。
「加茂の水」で描かれる玉松操は本編ではじめて耳にした名前です。岩倉具視の参謀として招かれ、その密書の多くを代筆。ついには倒幕の密勅、錦旗の意匠まで手がけることになるのです。が、玉松は極端な攘夷思想者であり、開国を旨とした新政府とは袂を分かつことになります。その最期は不明。ただ、岩倉具視は、玉松操を心底敬愛していたようで、玉松操の名を後世に語り継ぐよう涙ながらに言い遺したということです。 「鬼謀の人」の主人公は大村益次郎(村田蔵六、後、村田良庵)。元はただの周防の村医。優れた蘭学者としては緒方洪庵お墨付きで、伊予宇和島藩からの招聘を機に歴史の表舞台へ出るようになります。第二次長州征伐では長州軍の軍師を務め、さらに石州口にはみずから大将となって進軍。瞬く間に幕府軍を破っています。さらに彰義隊との上野山合戦、続く戊辰戦争の指揮官として超人的な戦略を立案。が、対人能力がほとんど欠落した人のようで、益次郎を憎む人も多かったようです。最期は暗殺されてこの世を去ります。
以下、長くなるので省略しますが、個人的には非常に好きな短編集で、短い中に作者の思い入れが随処に現れます。例えば、「人斬り以蔵」の出だしはこうです。「不幸な男がうまれた。」、と。 また、「鬼謀の人」は、次のように結ばれます。「益次郎は ・・・ 使命がおわると大急ぎで去った。神秘的でさえある。」、と。 いずれもが幕末の悲劇の人物。読む方も作者の思い入れに応じるように、自然に感情移入してしまいます。司馬遼太郎の短編はとても密度が濃い。との印象があります。中でも本書は一番のおすすめのような気がします。
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