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さむらい劇場(さむらいげきじょう)
- 著者 : 池波正太郎
- 発行 : 新潮文庫
- あらすじ ...
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七百石の旗本・榎木軍兵衛の三男・平八郎二十一歳。しかし平八郎は軍兵衛が出来心で侍女・みつに手をつけて生まれた子で、父や正夫人、兄ばかりでなく郎党たちからも差別を受けていた。そんなある時、軍兵衛が御先手鉄砲頭に就く祝いの宴が催される。
その席、父の名で長男彦十郎と手合わせをすることに。無名の無外流・山本忠介の道場に通う平八郎に対し、彦十郎は名門・窪田道場でも十指に入る使い手。この機に平八郎を叩きのめそうという軍兵衛と彦十郎。が、平八郎の木刀は彦十郎の首を打ち失神させてしまう。 怒りが収まらない軍兵衛は用人たちと謀議を凝らし、所の顔役・赤大黒に平八郎暗殺を依頼する暴挙に出る。ほどなく、平八郎を囲む三人の浪人者の姿があった。平八郎が覚悟をした時、鉄爪を投げて救う者がいた。偶然用人と赤大黒の密談を耳にした浜嶋友五郎であった。 平八郎は友五郎から、これが父の差金であることを聞いて驚く。そして言われるまま友五郎についていくとそこは尾張藩江戸屋敷。さらには時の将軍・吉宗と反目する尾張宗春に謁見して再び驚く。友五郎は尾張藩の裏の仕事を請け負っていたのだ。 平八郎は友五郎から仲間に誘われると出奔を決意。尾張家下屋敷に潜伏する。やがて出番。その日は将軍家御狩りの日。平八郎はある百姓屋に潜み隠れる。しばらくして。入ってきたのは将軍・吉宗と百姓娘だった。吉宗がすばやく着物を脱ぎ、娘に手をかけようとした瞬間、背後から声をかける者が。その曲者・平八郎が吉宗を殴りつけると気絶。別の曲者が娘を逃す。これで幕府に狙われる身となった平八郎。が、気分は爽快だった ・・・。
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池波正太郎の痛快時代劇。旗本の妾腹の子が父に疎まれ出奔。様々な冒険を繰り返すという著者お得意のストーリー。この主人公の境遇は、ご存知「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵も同じ。何より、前半は「おとこの秘図」の徳山五兵衛とそっくり。と思いきや、作中、この五兵衛が登場。自分と同じ境遇の主人公・平八郎に同情し、身を立てるべく奔走するのです。著者はよほどこの徳山五兵衛のキャラクターがお気に入りのようで、「堀部安兵衛」などにも登場しています。
時は元文。八大将軍吉宗の世。武門の政治を目指し、倹約を美徳としていた将軍。一方、尾張藩の藩主・宗春は倹約令に反抗。名古屋城下で振興政策を実施。公然と吉宗の政策に対抗心を顕わにしていました。この反目には多分に将軍継嗣問題が影響していると言われます。吉宗は元紀州藩の四男坊。ところが兄たちが次々と他界し藩主の座に押し上げられていきます。ここで吉宗は倹約令で、逼迫していた藩財政をを立て直すことに成功。のちの幕府政策に繋がっていくこととなります。 一方、幕府でも、五代将軍・綱吉に世継がなく、続く六代、七代が短期間で病死。ここに徳川家直系の血筋は途絶えることになります。ここで、本来なら御三家筆頭の尾張藩から将軍を迎えるのが筋。そう思いこんで尾張藩は安心していたものかどうか。その間、吉宗が裏工作に奔走。ついに将軍職を勝ち取ってしまいます。本作の尾張宗春はこの時敗れた尾張継友の弟に当たります。継友亡き後に宗春が当主に。吉宗に対する怨恨が、宗春の対抗政策を生んだのかも知れません。 そして本作は、そんな時代背景を見事に活かしています。ただし、物語は幾分宗春寄り。が、宗春の政策は放漫経営に似たところがあり、町は繁栄しますが藩は破産寸前。現実には宗春は吉宗に敗れ去ることになります。とはいえ、吉宗も、幕府財政の立て直しには成功しますが国家財政は荒廃したまま。完勝とは言えないようです。
物語の主人公・榎木平八郎は、そんな尾張宗春に傾倒。友五郎の幕府霍乱に協力することになります。が、また、平八郎は自由人でもあります。わけも説明せずに束縛を強要する友五郎とは、後に袂を分かつことになるわけです。ところが自分がいない間に榎家では兄二人が他界。己が子を殺そうとまでした父は、ついに平八郎に家を継ぐよう懇願するのです。当時、「家」の重みとは何だったのでしょうか? 時に正義や理屈や人の命をも上回る怪物であったような気もします。いずれにせよ、平八郎は気ままにならない旗本の家を継がされることとなります。そして終盤は、これもいつもの如く火付盗賊改方として逆の立場で活躍。怪盗日本左衛門の捕縛に成功します。 が、最後、平八郎の頭に浮かんだものは「昔の夢」でした。夢敗れ自由を奪われた尾張宗春。その宗春に、かつて、日本を出よ、と言われたのです。つまりは海外貿易。一時は本気で友五郎とともに奔走を始めた平八郎。が、平八郎は榎家の当主に納まることとなります。本編は、男の夢と成長と運命を描いた物語であったと言えます。 正直、本書の位置づけは難しいところで、各人物像や相関、展開はほぼ「おとこの秘図」と同じと思えます。その分、インパクトが小さいのはいたしかたのないことかもしれません。しかし著者の文章のおもしろさは、それを上回る、というのが著者の真骨頂とも見れます。読みやすさはおもしろさ、という娯楽小説の鉄則が実感できる一品でもあります。
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