Index

HOME > 小説TOP > 読書録

Information


真田太平記

(さなだたいへいき)

著者 : 池波正太郎
発行 : 新潮文庫(全十二巻)
あらすじ ...
 世は戦国、真田家は信州から上州にかけてわずかな領地を保有していました。しかし1582年、織田信長により天目山に滅んだ武田氏。主家が滅んで、真田家は孤立することになります。が、間もなくその織田信長も謀反により倒れ、羽柴秀吉と徳川家康が天下を狙って睨み合います。昌幸が秀吉に傾いたころ、領地争いがこじれて、徳川の大軍が真田氏の上田城へ、さらに北条氏の大軍が沼田城へ攻め入ります。昌幸は、これまで敵だった越後の上杉景勝の元を訪れ、命がけで和議を結びます。そして、わずかな兵で何とか両軍を退けることに成功するのでした。
 そして世は秀吉の時代に。長子信之は家康の重臣本多平八郎の娘を娶り徳川家と縁を深め、一方弟の幸村は、上杉家、豊臣家へと人質として伺候し、後に豊臣家の臣大谷吉継の娘を娶り、豊臣家との縁を深めていくことになります。
 その秀吉が死ぬと、にわかに戦雲が立ち込め、ついに日本中が東軍と西軍に分かれて争い始めます。真田家もみずからの存亡をかけた決断を、再び迫られることになるのです。しかし真田家はここで苦渋の選択をすることになります。、家康嫌いだった昌幸と幸村は西軍につき、徳川家の嫁を持つ信之は家康の東軍へつくのです。
 やがて、家康の嫡子秀忠が、四万ともいわれる大軍を率いて、昌幸・幸村父子がこもる上田城へ押し寄せます。そして、わずか二千か三千ばかりの兵で徳川軍を足止めすることに成功するのでした。ほどなくして関が原で東西両軍が激突。上田城にてこずった秀忠軍はなんと関が原に遅参してしまうのです。しかし、にもかかわらず、四万もの兵を欠いた東軍に、西軍は裏切る武将が続出して敗退。昌幸と幸村は、命は助けられたものの、紀州へ蟄居の身となってしまいます。
 天下人となった家康は江戸に幕府を開き、豊臣家をつぶすべく陰謀を張り巡らせ始めます。関が原から11年、昌幸の方は、紀州の地で野望を胸に秘めたまま死を迎えますが、その4年後、ついに大阪夏の陣が勃発します。幸村はこの機に大阪城へ入城し、出城を築いて徳川軍を迎え撃とうとします。
コメント ...
 戦国時代が収束へと向かいつつある1580年代、大大名に囲まれた小大名真田氏を描いた歴史大作。すべてのストーリーはとても紹介しきれません。父・真田昌幸、長男の信幸、次男の幸村。これら真田家の面々の活き活きとした物語、さらには忍者たちが登場し活躍する場面も多数あり、また、歴史上のエピソードも網羅的に紹介されたりしていて、かなり多角的に楽しめる作品といえるでしょう。
 真田、と聞いて思い浮かぶのは"幸村"の名前でしょう。しかし、この幸村の名が有名になったのは、大阪夏の陣、冬の陣でのこと。それまでは、徳川の大軍から二度までも守りきった父昌幸の方がはるかに有名だったということです。本作品では、昌幸、幸村ばかりでなく、これまであまり語られることのなかった信之の三者の視点からまんべんなく描かれています。また、猿飛佐助、霧隠才蔵といった忍者は無論架空の人物。江戸時代に書かれた「真田三代記」などに登場する、"真田十勇士"の中の人物です。しかし本作には向井佐助なる忍者が登場して大活躍をします。

 さて、物語は、真田昌幸から始まります。真田家は元武田家の臣。信玄が切り取った北信濃を父・幸隆が支配を始め、真田家は始めて歴史の表舞台に登場します。しかし、信玄亡き後に起こった長篠合戦で、武田家の有力武将のほとんどは名もない足軽の鉄砲で討死。真田家でも当主・幸隆と嫡子たる兄を亡くし、ただ一人残った昌幸が跡を継ぐことになります。
 はたして誰もが滅ぶと思われた真田家。家康もそのつもりで敵である真田家の領地を北条家と取引したのでしょう。この家康の強引さは、秀吉亡き後にとった狡猾さを彷彿とさせます。昌幸が後に家康の野望を見抜いたのは、みずからの体験に基づくものではなかったでしょうか。ともかくも、昌幸は家康の軍を打ち破り、しぶとく生き残ります。時に謀略を用いて城を乗っ取ったこともあり、表裏比況のもの、といわれた昌幸ですが、弱小大名の生き残るすべは限られていたと言うほかありません。
 第二のクライマックスは関が原。ここで昌幸と幸村は西軍につくわけですが、長子・信幸(のちの信之)は東軍につくことになります。幸村は大阪城へ伺候しており、信幸の妻は家康の名臣・本多忠勝の娘。物語では、それに加えて、思想・展望の違いにより別れたという説を採っています。が、どちらが勝っても生き残るように昌幸が計ったとの見方もあります。このため、四万もの徳川の大軍をわずか三千で足止めした武勇にもかかわらず、昌幸を潔しとせず、その悪評を高める結果となったことは否めません。
 その点、幸村はどうだったのだろうか、とも思います。物語は最後のクライマックス・大阪城へと移るのですが、幸村は昌幸の謀略好きを嫌っていたのか、あるいはその悪評を疎んじていたのか、幸村は正面から東軍にぶつかっていきます。その冬の陣。多くの物語では家康が幸村を恐れたとありますが、これはないように思います。父・昌幸はともかく、何の武勇もない幸村を恐れるいわれはなく、おそらく家康は気にも留めていなかったのではないでしょうか。昌幸が亡くなった後、幸村周囲の監視が手薄になり、これを放置していたことからもうかがい知れます。本書でもそれは明確に否定しています。ともかく、ここで、出城を築いて最前線で奮戦した幸村の名が始めて全国に知られることなるわけです。
 やがて夏の陣で壮絶な死を迎える幸村。その戦いぶりは昌幸とは異なり、 "日本一の兵(つわもの)" と言われ讃えられ、その名を永遠に歴史に留めることになります。その誕生から100年を超えていた戦国武将の歴史。幸村の死によって戦国武将の時代がついに終わったといえるのかもしれません。

 作品は文庫本にして12巻という長丁場ですが、会話の多用と簡潔な状況描写で、一気に読んでも全くストレスを感じません。また、登場人物も莫大な数になるのですが、適度に同じ説明を繰り返してくれるので、ページをひっくり返すこともありません。史実を基にしているとは思えないほどの物語のおもしろさ、さらには人情の機微の描き方などは非の打ち所がなく、読んでいて感極まってしまう場面も十や二十ではきかないのではないでしょうか。このあたり、著者は稀代のストーリーテラーとも言えるでしょう。
 ところでこの池波正太郎氏、テレビシリーズでおなじみの「鬼平犯科帳」の原作者であることは周知のこと。本作も昔NHKが大河ドラマ化しています。他にも、「剣客商売」、「仕掛人梅安」など多くの作品がテレビシリーズ化、または映画化されており、あまりにもヒット作が多い同氏。一方ファンの方はというと、どうも、「真田派」、「鬼平派」、「剣客派」などがあるようですが、これはまあ余談。ともあれ、池波正太郎ファンならずとも、「竜馬がゆく」(司馬遼太郎)と並んで歴史好きなら必読の本書。戦国時代の終焉とともに滅びていく戦国武将の姿に感無量となること間違いありません。

・・・ 関連作品 ・・・
 池波戦国ものでは他に「戦国幻想曲」があります。これは槍の勘兵衛こと豪傑・渡辺勘兵衛の生涯を描いたもの。
 新陰流の祖である剣豪・上泉信綱を採り上げた「剣の天地」は異色作。
 本作に関連しては、沼田氏一族を描いた「まぼろしの城」もあります。沼田城は後に昌幸が手にすることになります。

www.sasaraan.net

book review

(c) morijoh