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シタフォードの秘密(シタフォードの謎)

(The Sittaford Mystery)

著者 : アガサ・クリスティ
発行 : ハヤカワ・ミステリ文庫(創元推理文庫)
あらすじ ...
 大雪の中、下界と隔絶したシタフォード荘に集まった近所の6人。成り行きから降霊会をすることになりテーブルを囲みます。取り留めのないやり取りが続いた後、"トリヴィアン大佐が死んだ" というメッセージが。大佐は下界のエクスハンプトンに住むシタフォード荘の家主。友人のバーナビ少佐は不安になって、雪が積もり続ける中、大佐の家を尋ねていくことに。そして大佐の死体を発見。死亡時間は霊のお告げのあった5時25分ごろと分かってさらに驚きます。
 ほどなく駆けつけたナラコット警部。乱雑にされた部屋は泥棒の仕業と思われましたが、警部はふとしたことからそれが狂言で、これが計画殺人であることを見抜きます。同じ頃、バーナビ少佐にフットボール予想の懸賞賞金を届けに来た若い記者のエンダビイ。偶然出会った殺人事件に張り切り独自の聞き込みを始めます。
 一方、周囲の人物に疑いの目を向けたナラコット警部。多額の遺産を受け取ることになる妹ジェニファと亡くなった妹メリーの子、ジェイムズ、シルヴィア、ブライアンに目をつけ始めます。そして、犯行日、なぜか村を訪れていたジェイムズを問い詰めるとしどろもどろ。ついに容疑者として逮捕することに。が、ジェイムズには婚約者エミリーが。恋人の無実を晴らすために、記者のエンダビイをまんまと丸め込んでシタフォードへ乗り込むのでしたが ・・・。
コメント ...
 アガサ・クリスティー初期(1931)のミステリー。雪の寒村で起こったオカルト的な殺人事件がモチーフ。ポワロもミス・マープルも登場しませんが、名探偵が登場しない作品の方が実は人気があったりするのがクリスティーの七不思議のひとつ。一方で、クリスティーの名作は、いずれも、ミステリーという範疇を離れて、 "読み物" としても十分に楽しめるのが特徴的。つまりは本格推理として推理を抜きにしても大変におもしろいのです。
 実はアガサ・クリスティーといえば、冒険小説家としての腕前もかなりのもので、まさに "知る人ぞ知る" 存在。これこそがクリスティーの醍醐味であって、他の本格推理作家が足元にも及ばないところ、と思うのですがどうでしょうか。そのかわり、細かい点では幾分雑なところが当たりするのがご愛嬌。本作でも降霊術の一件は完全に明らかになって終わるわけではありません。序盤であまりにもキャッチーなモチーフになっているのでこの点だけちょっと残念のような気はしました。
 物語の舞台は、人里離れたシタフォードの集落。コテージが六件だけという閉ざされた世界。しかも大雪。そこで行われる怪しげな降霊会。そして霊のお告げ通りに行われた殺人事件。と、これでもか、というほど畳み掛けて読者の好奇心を煽ります。 "正直、これからどんな物語になるか分からないが、こいつはおもしろいぞ" という期待感であふれていくのです。
 本作は実に古典的なつくり。序盤で主要な登場人物を次々と登場させ、読者にプレッシャーをかけます。が、ここから終盤までは探偵役と容疑者との一人づつのやり取りを展開していき、じっくりと各人物を描いていきます。そして最後、関係者が一同に集まっているところで解決劇。探偵役はナラコット警部、かと思いきや、途中からエミリーが登場して探偵役を引き継ぐと物語は一変。一気に神秘的な雰囲気から冒険ものの雰囲気へと移っていきます。
 特に、みずから優秀さを自覚する記者エンダビイを一瞬にして虜にして手下のようにしてしまうところは何ともユーモラス。捜査に奔走するそのエミリー。最後には、自分が一番の容疑者であることに気付くというおかしなシーンもあります。
 クリスティー作品の特徴のひとつに、会話中心の展開という点があります。しかも軽妙。これが読みやすさの一因。さらに、クリスティーの繊細な人物描写は見事と言っていいのではないでしょうか。状況描写重視で、無機的になりがちな本格モノの人物描写ですが、この血の通った登場人物たちが一層読者を魅了していきます。せりふの一つ一つが、その人物の個性や人柄を象徴していて、作品全体を実に人間的なものにしているのです。古い作品が伝統化していく中、クリスティーが、いまだファンを生み続けているにはそれなりの理由があるわけです。
 本作は、女史の初期の代表作とする人も多いようで、そのおもしろさは読めば誰しもが納得でしょう。他にも、「秘密機関」や「バグダッドの秘密」、「茶色の服の男」など、冒険モノに多数の名作があります。ぜひおすすめしたいところ。ちなみに、本作は、ハヤカワミステリ文庫では「シタフォードの秘密」、創元推理文庫では「シタフォードの謎」となっています。同じ作品なのにちょっとややこしいですね。

・・・ 関連作品 ・・・
 ポワロもの・マープルもの以外の初期のクリスティ作品では、「七つの時計」(1929)がおすすめ。
 冒険小説的なのが「茶色の服の男」(1924)や「チムニーズ館の秘密」(1925)。古い作品ですが抜群のストーリーテリング。筆者も学生時代には夢中になりました。

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